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2008年11月1日土曜日

拒絶査定不服審判 不服2005-23495  特願2002-101

第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成14年1月4日の出願(パリ条約による優先権主張2001年1月4日、韓国)であって、平成17年8月11日付けで手続補正がなされ、その後平成17月8月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年12月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年1月5日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成18年1月5日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成18年1月5日付け手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正
本件補正は、段落34、36、43について、
(ア)【0034】を「<実施例5>
ガラス基板上にニッケル-鉄(NiFe)系軟磁性層を400nmの層厚で形成した後、チタン(Ti)下地層を5nmの層厚で形成し、白金(Pt)垂直補強層を15nmの層厚に蒸着した以外は、実施例1の方法と同様にして2層構造の垂直磁気記録(PMR)ディスクを製造した。」
(イ)【0036】を「<実施例7>
厚さ0.635mmのガラス基板上にニッケル-鉄(NiFe)系軟磁性層を10nmの層厚で形成し、白金(Pt)垂直補強層を15nmの層厚で形成した以外は、実施例6の方法と同様にして擬似2層構造の垂直磁気記録(PMR)ディスクを製造した。」
(ウ)【0043】を「<比較例3>
厚さ0.635mmのガラス基板上にチタン(Ti)下地層を40nmの層厚で設けた以外は、比較例1の方法と同様にして垂直磁気記録(PMR)ディスクを製造した。」
と補正するものである。
本件補正の、(ア)(イ)の「白金(Pt)垂直補強層」が「15nm」の層厚である構成は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されていない。
請求人は、請求項1や段落22の「15nm以上」という記載を根拠に、当初明細書等の「10nm」の記載が誤記であって「15nm」とすべきことは自ずと明らかな事項であると主張している。
しかしながら、当初明細書等の「10nm」の記載が請求項1や段落22の記載と矛盾しているからといって、実施例5や7の白金(Pt)垂直補強層の層厚が15nmの誤記であったことは自明ではない。即ち、請求項1や段落22の内容が間違いである場合や、実施例5や7のPtの層厚が15nm以外の層厚である可能性があるからである。
本件補正の、(ウ)の「下地層」が「チタン(Ti)下地層」である構成は、当初明細書等に記載されていない。当初明細書等には、「チタン(Ti)下地層の代わりに白金(Pt)下地層を40nmの層厚で設けた」と記載されているのみである。
請求人は、当初明細書の「白金(Pt)下地層」は誤記であって、<比較例3>が比較例であるためには、従来例として当初明細書に記載された「チタン(Ti)下地層」であることが自ずと明らかな事項であると主張している。
しかしながら、当初明細書等の「白金(Pt)下地層」の記載が比較例の記載としては請求項の記載と矛盾しているからといって、下地層が本来「チタン(Ti)下地層」の誤記であったことは自明ではない。
よって、本件補正の、(ア)(イ)の「白金(Pt)垂直補強層」が「15nm」の層厚である構成、及び(ウ)の「下地層」が「チタン(Ti)下地層」である構成は、当初明細書等に記載した事項の範囲内であるということはできない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年8月11日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】基板と垂直磁気記録層との間に、垂直磁気記録層の垂直配向性を高めるための垂直配向特性低下防止層が15?50nmの層厚にて設けられたことを特徴とする垂直磁気記録媒体。」

2 引用例
(1)原審の拒絶理由で引用した特開平7-334832号公報(以下「引用例1」という。)には、「垂直磁気記録媒体及び磁気記録装置」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア)「【請求項5】単結晶からなる基板と、該基板上に形成された下地膜と、該下地膜上に形成されたCoまたはCoを主成分とする合金からなる垂直磁化膜と、該垂直磁化膜上に形成された保護膜とからなる垂直磁気記録媒体であって、前記下地膜が前記基板上に、前記垂直磁化膜が前記基板面に対して垂直な磁化容易軸をもつように前記下地膜上にエピタキシャル成長していることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項9】請求項5に記載の垂直磁気記録媒体において、前記下地膜の前記基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(下地膜)とする)と、前記垂直磁化膜の前記基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(垂直磁化膜)とする)とが、
|a(垂直磁化膜)-a(下地膜)|/a(下地膜)≦0.25
の関係を満足することを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項24】請求項5から12のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体において、前記下地膜は面心立方構造を有する材料からなり、Ag、Al、Au、Co、Cu、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、及びこれらの元素を主成分とする合金、からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料で構成され、前記下地膜の配向方位が<111>であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。」(特許請求の範囲の請求項5、9、24)
(イ)「【0019】本発明の垂直磁気記録媒体の第2の実施形態は、図2に示すように、基板21と、この基板上に設けられた下地膜22と、この下地膜上に設けられた垂直磁化膜23と、この垂直磁化膜上に設けられた保護膜24とからなる垂直磁気記録媒体であって、基板が単結晶であり、垂直磁化膜23が下地膜22上に、また下地膜22が基板21上に、それぞれエピタキシャル成長していることが好ましい。すなわち、下地膜22の各結晶粒に共通な特定の結晶軸が膜面方線方向に揃い、かつこの結晶軸に垂直で、各結晶粒に共通な別の結晶軸が基板面内の一方向に揃い、かつ垂直磁化膜23の各結晶粒に共通な特定の結晶軸が膜面方線方向に揃い、かつこの結晶軸に垂直で、各結晶粒に共通な別の結晶軸が基板面内の一方向に揃っている。」
(ウ)「【0020】第1、第2の実施形態においては、(1)垂直磁化膜12及び23の材料を、CoまたはCoを主成分とする合金とすること、(2)基板の表面は表面粗さRaの値が10nm以下の平坦度を有することが最も好ましく、(3)基板面内の最近接原子間距離(a(基板)とする)と、垂直磁化膜の基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(垂直磁化膜)とする)と、下地膜の基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(下地膜)とする)とが、第1の実施形態では、
|a(垂直磁化膜)-a(基板)|/a(基板)≧0.005
第2の実施形態では、
|a(下地膜)-a(基板)|/a(基板)≧0.005
の関係をそれぞれ満足すること、が最も好ましい。」
(エ)「【0022】第2の実施形態においては、下地膜の基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(下地膜)とする)と、垂直磁化膜の基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離(a(垂直磁化膜)とする)とが、
|a(垂直磁化膜)-a(下地膜)|/a(下地膜)≦0.25
の関係を満足することが好ましく、
|a(垂直磁化膜)-a(下地膜)|/a(下地膜)≦0.15
の関係を満足することが最も好ましい。下地膜は、(1)六方最密充填構造を有する材料からなり、Co、Hf、Mg、Os、Re、Ru、Ti、Zn、Zr、及びこれらの元素を主成分とする合金、からなる群より選ばれた少なくとも一種の材料で構成され、前記下地膜の配向方位が〔0001〕であること、または(2)面心立方構造を有する材料からなり、Ag、Al、Au、Co、Cu、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、及びこれらの元素を主成分とする合金、からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料で構成され、前記下地膜の配向方位が<111>であること、が最も好ましい。以下に、本発明の代表的な実施例を図面を用いて詳細に説明する。」
(オ)「【0027】〈実施例2〉表面を鏡面研磨した直径0.8インチのMgO単結晶基板(面方位(111)、表面更さ、Ra=1nm)を用い、図5に示すような断面構造を持つ磁気記録媒体を、DCマグネトロンスパッタリング法によって作製した。単結晶基板51の両面に、Cu下地膜52、52’、Co合金磁性膜53、53’、カーボン保護膜54、54’をこの順序で形成する。なお、MgO単結晶基板は、立方晶系のNaCl型結晶構造であり、Cu下地膜は面心立方構造、Co合金磁性膜は六方最密充填構造である。Cu下地膜、Co合金磁性膜、カーボン保護膜の成膜にはアルゴンガスを用い、ガスの圧力0.7Pa、基板温度250℃、成膜速度毎分50nmの条件で形成した。磁性膜の形成に用いるターゲットの組成はCo-12at.%Cr-10at.%Ptとした。各膜の膜厚は、Cu下地膜が20nm、Co合金磁性膜が100nm、カーボン保護膜が10nmとした。上記の膜形成はすべて同一の真空槽内で真空を破ることなく連続して行った。得られたCo合金磁性膜の組成はターゲットの組成とほぼ同じ、CoCr_(12)Pt_(10)であり、最近接原子間距離は0.255nmである。
【0028】作製した試料の結晶配向をX線回折によって、磁気特性を試料振動型磁力計(VSM)を用いてそれぞれ測定した。X線回折では、基板の回折とCuの111回折ピーク、Co合金の0002回折ピークが観測され、Cuが<111>配向、Co合金膜が〔0001〕配向していることがわかった。さらにX線極点図形の測定により、膜面内の結晶方位に関しても強く配向していることがわかった。Co合金の0002回折ピークのロッキング曲線を測定したところ、本実施例の磁気記録媒体は、ガラス基板を用いて全く同様の条件で作製した磁気記録媒体と比較して、ロッキング曲線の半値幅が大きく減少しており、Co合金磁性膜の〔0001〕配向が著しく改善され、膜面垂直方向の保磁力は13.8%向上した、1650(Oe)であった。
【0029】また、上記Cu下地膜に代えて、いずれも面心立方構造をもつAg、Al、Au、Ir、Pd、Pt、Rh、Pt-Rh合金の各下地膜を用いたところ、いずれも上記と同様の改善効果が認められた。さらにいずれも六方最密充填構造をもつHf、Mg、Os、Re、Ru、Ti、Zn、Zr、Ti-Zr合金の各下地膜を用いてもやはり上記と同様の効果があった。これら得られた垂直方向の保磁力の結果を、ロッキング曲線の半値幅データ、下地膜の最近接原子間距離データとともに表2に示す。基板がMgO単結晶基板(面方位(111)である場合には、表2に示した膜面垂直方向の保磁力の大きさから見て、下地材料としてはCu、Ti、Ru、等が、好ましい結果を与えている。表2には、基板面内の最近接原子間距離をa(基板)、垂直磁化膜の膜面内の最近接原子間距離をa(垂直磁化膜)、下地膜の基板面に平行な膜面内の最近接原子間距離をa(下地膜)とするとき、関係式、
100×|a(下地膜)-a(基板)|/a(基板)
で表したミスフイット率1、及び
100×|a(垂直磁化膜)-a(下地膜)|/a(下地膜)
で表したミスフイット率2、をそれぞれ示す。」
(カ)「【0039】
【発明の効果】本発明を用いれば、単結晶上のエピタキシャル成長により、極めて強い配向性をもち、大きな垂直磁気異方性を示す垂直磁化膜を備えた、高性能の垂直磁気記録媒体を提供することができ、高密度の垂直磁気記録が可能になる。」

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
引用例1には、特に上記2(イ)(エ)(オ)(下線部参照)に摘示した記載事項によれば、
「基板と、この基板上に設けられた下地膜と、この下地膜上に設けられた垂直磁化膜と、この垂直磁化膜上に設けられた保護膜とからなる垂直磁気記録媒体であって、
下地膜は、面心立方構造を有する材料からなり、Ag、Al、Au、Co、Cu、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、及びこれらの元素を主成分とする合金、からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料で構成され、上記下地膜の配向方位が<111>であり、
上記下地膜は、Cu下地膜が膜厚20nmで形成され、またCuに代えAu、Pd、Ptの各下地膜でも形成されてなる、垂直磁気記録媒体。」
の発明が記載されている。

(2)
ア. 引用例1に記載された発明の「垂直磁化膜」は、本願発明の「垂直磁気記録層」に相当している。
イ. 引用例1に記載された発明の「下地膜」は、「面心立方構造を有する材料からなり」、Au、Pd、Ptからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料で構成されていて、当該下地膜は、垂直磁化膜と、それぞれの最近接原子間距離(a(下地膜)とa(垂直磁化膜))が、所定の範囲内のミスフィットになるよう選択されることにより、垂直配向性の高い垂直磁化膜を得ることができたものである。一方、本願発明の「垂直配向特性低下防止層」は、基板と垂直磁気記録層との間に設けられ、垂直結晶配向特性に優れた金属から構成され、当該金属としてはPt、Au、Pdが列挙され(段落22、28)、垂直磁化膜との結晶格子径の差が、従来のものより小さくなる(段落27等)ように選択したものである。してみれば、引用例1に記載された発明の「下地膜」は、本願発明の「垂直磁気記録層の垂直配向性を高めるための垂直配向特性低下防止層」に実質的に相当している。
ウ. 引用例1に記載された発明の「下地膜」は、具体的には、Cu下地膜が膜厚20nmで形成され、またCuに代えAu、Pd、Ptの各下地膜でも形成されてなるので、Au、Pd、Ptの各下地膜も膜厚20nmで形成されているものと解されるから、本願発明の「垂直配向特性低下防止層が15?50nmの層厚」という特定に含まれる構成を備え、引用例1に記載された発明は、本願発明と、20nmにおいて一致している。
エ. 上記ア.イ.ウ.によれば、引用例1に記載された発明の「垂直磁気記録媒体」は、本願発明の「基板と垂直磁気記録層との間に、垂直磁気記録層の垂直配向性を高めるための垂直配向特性低下防止層が15?50nmの層厚にて設けられたこと」に相当する構成を備えている。
以上のとおりであるから、本願発明は引用例に記載された発明と同一である。

オ. また、本願発明では、「垂直磁気記録層の垂直配向性を高めるための垂直配向特性低下防止層が15?50nmの層厚にて設けられたこと」と特定されているのに対し、引用例1に記載された発明では、層厚の数値範囲をそのように特定されていない点で、一応相違するとしても、上記点は、次の理由により当業者が容易に想到しうることにすぎない。
引用例1にはCu下地膜で層厚20nmにする例示が記載されていることから、Cuに代えAu、Pd、Ptの各下地膜でも20nm近傍の15?50nm程度の厚さで形成することは、当業者が適宜なし得る程度の値にすぎない。また、本願の明細書には、「その層厚は15nm以上であると良い。層厚が15nmより薄くなると、この垂直補強層26の上下に設けられる他の層との安定性が低下するためである。」(段落22)と下限の技術的意義が説明されているが、当業者が各層を形成する際に適宜なし得る程度の事項であり、上限については特に限定されるものではない(段落22)のであるから、上記数値範囲「15?50nmの層厚」の限定に、格別意義があるものではない。
なお、請求人は、平成17年8月11日付け意見書及び請求の理由の手続補正書(方式)において、実験結果のデータを追加して、「15?50nmの層厚」の数値範囲に臨界的意義があることを主張しているが、当初明細書等には上述(段落22)の記載があるのみであって、特に50nmを超える層厚においての臨界的意義に関する主張は、出願後の実験結果に基づくものであって、到底採用できない。もっとも、引用例1に20nmの例示があるのであるから、「15?50nmの層厚」は、先に述べたとおり、当業者が必要に応じ適宜なし得る程度の数値範囲にすぎない。

4 むすび
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

拒絶査定不服審判 不服2006-19784 特願2001-210521

本願は、平成13年7月11日の出願であって、その請求項1?11に係る発明は、平成20年7月11日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
なお、平成18年9月25日付け手続補正は、平成20年7月7日付けの補正の却下の決定により却下された。
そして、本願については、原査定の拒絶理由及び当審で通知した拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

2008年10月31日金曜日

拒絶査定不服審判 不服2004-19976 特願平5-350276

I.手続の経緯、本願発明
本願は、平成5年12月28日(パリ条約による優先権主張 1993年1月4日、オランダ)の出願であって、本願請求項1?17に係る発明は、平成15年9月25日付けと平成16年10月26日付けの手続補正で補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】 少なくとも2面の情報平面を有する光学的記録担体と、前記記録担体の一方の側から前記情報平面を走査する読取り装置とを備え、その読取り装置が、読取るべき情報平面上に放射線スポットを形成するとともに、前記記録担体からの放射線を検出出力電気信号に変換する放射線感知検出系まで通過させる光学系と、前記検出系に電気的に接続して前記検出出力信号を情報信号に変換する検出回路とを備える情報蓄積系において、
前記情報平面相互間の距離および前記情報平面の光学特性が当該情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して、読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が、読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さいことを特徴とする多平面情報記録系。」

II.引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平3-209642号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審が付与した。
(i)「(1)レーザーを絞って照射し、その反射光を読み取って情報面に記録された情報を再生する光情報媒体において、レーザー入射側と反対側の面に情報面が形成された透明物質層と前記情報面上に形成された非透明物質膜とからなる複数の媒体ユニットを、レーザー入射方向に重ね合わせ、且つレーザー入射側に近い情報面の反射率を入射側から遠い情報面の反射率より小さくしたことを特徴とする光情報媒体。」(特許請求の範囲の請求項1参照)、
(ii)「作用
第1発明及び第2発明によれば、2層以上形成した情報面を、レーザー入射側に近い情報面はどその反射率を小さくなるように構成しているので、レーザー入射側から遠い情報面にも十分レーザーが到達し、それぞれの層の情報面を独立に読み出す事ができるようになり、同じ大きさの光情報媒体でも記録領域の面積を数倍にでき、記録密度を飛躍的に向上できる。」(第3頁右上欄2~10行参照)、
(iii)「実施例1
(ディスク構造)
光情報媒体を多層の情報面で構成して、より高密度化する事を目的とする。
本実施例では2層の媒体ユニットからなる場合で、かつ、それらの情報面が再生専用である場合について説明する。第1図は、その2層のうちレーザー入射側より遠い情報面にレーザーが絞られている場合を示す。1はガラスや樹脂の透明物質層で、その片面に情報面2が形成されている。第1図では情報がV溝斜面に記録された場合を示している。その情報面上に半透明薄膜(非透明物質膜)3を入射レーザーの一部だけが反射するように形成する。半透明薄膜3の上に更に透明物質層4の一面に情報面5を形成する。情報面5上の反射膜(非透明物質膜)6はレーザーを殆ど反射した方がよいのでアルミニウムなどの金属で形成する。7は情報面5に絞られて入射するレーザーである。情報面5にレーザーの絞られた部分が照射されているので、情報面5の情報信号は再生できるが、その途中の情報面2でもレーザーの一部は反射される。7’はその一部の反射光である。しかし、透明物質層4の厚さが十分であれば情報面2上でのレーザービーム径は十分大きくなり、情報面2上の信号は識別しては再生できなくなり、情報面5の再生信号には悪影響は与えない。透明物質層4の厚さは100μm以上あれば十分である。また、情報面2上の半透明薄膜を均一に形成しておけば、入射レーザーは局所的な位相変化を受けないので、信号再生に不適当な回折現象も殆ど無視きる。
第2図は、2層のうちレーザー入射側に近い情報面にレーザーが絞られている場合を示す。8は情報面2に絞られて入射するレーザーを示す。情報面2には絞られたレーザースポットが照射されているので、その情報信号は再生できるが、レーザーの一部は半透明薄膜3を透過し情報面5でも反射される。8’はその反射光を表す。しかし、透明物質層4の厚さが十分であれば、第1図と同様に情報面5上でのレーザービーム径は十分大きくなり、情報面5上の信号は識別しては再生できなくなり、情報面2の再生信号には悪影響は与えない。なお、上記光情報媒体は円盤形状に形成されるのが一般である。
(再生方法)
一般に対物レンズでレーザーを十分に絞るには、対物レンズと情報面との間の透明物質層の厚さを、透明物質層の厚さと屈折率の積が対物レンズで決まる値にしなければならない。例えば、CDやビデオディスクに用いられている対物レンズでは、ディスク基材の屈折率は約1.5であり、厚さは1.2mmである。第1図、第2図の場合では、透明物質層1、4の厚さの合計が再生用の対物レンズで決められた所定の値になるように選ぶ。第1図では対物レンズと再生する情報面の間の透明物質層の厚さは2層の透明物質層1、4の厚さの合計になり、レーザーは十分に絞られて品質の高い信号が再生できる。しかし、第2図の場合では対物レンズと情報面の間の透明物質層の厚さは1層の透明物質層の厚さだけであるから、必要な厚さより薄くなりレーザーはよく絞れず再生信号が劣化する。そこで、第2図に示すようにレーザー入射側に近い情報面2を再生する時は、レーザー入射の途中に不足する厚さに相当する厚さの透明板9を挿入して所定の厚さを確保するようにする。
(3層以上の場合)
2層媒体について述べたが、3層以上の情報面を持つ媒体でも同様である。レーザー入射側に近い情報面はどレーザーの反射率を小さくして、レーザー入射側より遠い情報面にもレーザーを到達させて再生できるようにする。異なる情報面の間隔をある程度大きく(例えば、100μm以上)すれば、1つの情報面の再生中に他の情報面の信号が悪影響を及ぼす事は無視できるようになる。また、3層以上の異なる情報面を再生する時は、対物レンズとディスク間に挿入する透明板の厚さを変更して対応すればよい。」(第3頁左下欄7行~第4頁左下欄3行参照)。

これらの記載からみて、また、光情報媒体を備え且つ光学的に再生を行なう仕組み(装置)を有することが光情報記録再生系であることを意味するといえることから、引用例には、同じ大きさの光情報媒体でも記録領域の面積を数倍にでき、記録密度を飛躍的に向上できた、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されているものと認められる。
「レーザーを絞って照射し、その反射光を読み取って情報面に記録された情報を再生する光情報媒体と、レーザーと対物レンズを有し光学的に情報再生する装置と、を備えた光情報記録再生系において、
レーザー入射側と反対側の面に情報面が形成された透明物質層と前記情報面上に形成された非透明物質膜(半透明薄膜、反射膜)とからなる複数の媒体ユニットを、レーザー入射方向に重ね合わせ、且つレーザー入射側に近い情報面の反射率を入射側から遠い情報面の反射率より小さくし、それぞれの層の情報面を独立に読み出す事ができるようにした光情報媒体を備え、
レーザー入射側より遠い情報面または近い情報面にレーザーが絞られ、絞られたレーザースポットが照射されている情報面の情報信号を再生できる、
光情報記録再生系。」

III.対比・判断
そこで、本願発明と引用例発明とを対比する。
(a)引用例発明の「レーザー入射側と反対側の面に情報面が形成された透明物質層と前記情報面上に形成された非透明物質膜(半透明薄膜、反射膜)とからなる複数の媒体ユニットを、レーザー入射方向に重ね合わせ」た「光情報媒体」、及び、「レーザー入射側より遠い情報面または近い情報面にレーザーが絞られ、絞られたレーザースポットが照射されている情報面の情報信号を再生できる」は、
該「光情報媒体」が、少なくとも2面の情報面(情報平面)を有することが明らかであり、それら少なくとも2面の読み出しを一方の側から行うことを想定していることも明らかであるから、
本願発明の「少なくとも2面の情報平面を有する光学的記録担体」及び「前記記録担体の一方の側から前記情報平面を走査する」に相当する。

(b)引用例発明の「レーザーを絞って照射し、その反射光を読み取って情報面に記録された情報を再生する」と「レーザーと対物レンズを有し光学的に情報再生する装置」は、
該「レーザーを絞って照射し、反射光を読み取って情報面に記録された情報を再生する」ことが、周知慣用技術であるところの、情報面にスポットを形成しその反射光を受光素子で受光して電気信号に変換し、その検出出力信号を情報信号に変換し、そのための検出回路を備えることを意味するものと解されるから、
本願発明の「読取り装置とを備え」ること、及び「読取るべき情報平面上に放射線スポットを形成するとともに、前記記録担体からの放射線を検出出力電気信号に変換する放射線感知検出系まで通過させる光学系と、前記検出系に電気的に接続して前記検出出力信号を情報信号に変換する検出回路とを備える」ことに相当する。

(c)本願発明における「情報蓄積系」と「情報記録系」は、記載上異なるものの、同じ意味と解するのが妥当であり、また光学的記録担体に記録することを前提とするものであるから、引用例発明の「光情報記録再生系」と一致する。

してみると、両発明は、
「少なくとも2面の情報平面を有する光学的記録担体と、前記記録担体の一方の側から前記情報平面を走査する読取り装置とを備え、その読取り装置が、読取るべき情報平面上に放射線スポットを形成するとともに、前記記録担体からの放射線を検出出力電気信号に変換する放射線感知検出系まで通過させる光学系と、前記検出系に電気的に接続して前記検出出力信号を情報信号に変換する検出回路とを備える情報蓄積系(情報記録系)。」で、少なくとも一致している。

更に、本願発明では、
「前記情報平面相互間の距離および前記情報平面の光学特性が当該情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して、読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が、読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい」との構成(以下、「構成D」という。)で特定されているので検討する。

引用例には、(α)「透明物質層4の厚さが十分であれば情報面2上でのレーザービーム径は十分大きくなり、情報面2上の信号は識別しては再生できなくなり、情報面5の再生信号には悪影響は与えない。」(情報面5にレーザーが絞られている場合)や(β)「透明物質層4の厚さが十分であれば、第1図と同様に情報面5上でのレーザービーム径は十分大きくなり、情報面5上の信号は識別しては再生できなくなり、情報面2の再生信号には悪影響は与えない。」(情報面2にレーザーが絞られている場合)、(γ)「品質の高い信号が再生できる。」、(δ)「異なる情報面の間隔をある程度大きく(例えば、100μm以上)すれば、1つの情報面の再生中に他の情報面の信号が悪影響を及ぼす事は無視できるようになる。」などと記載されている(摘示(iii)参照)。
該「透明物質層4の厚さ」は、本願発明の「情報平面相互間の距離」に相当する。そして、例えば上記(β)の場合に、該「情報面5上の信号」は、本願発明の「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号」に相当するものであり、且つ、該「情報面2の再生信号」は、「読取るべき情報平面で発生した検出出力信号」に相当するものである(上記(α)の場合はその逆になる)ところ、前者の信号が後者の信号に悪影響を与えないことは、「読取るべき情報平面で発生した検出出力信号」の読み取りに支障がないことを意味するものと認められる。
してみると、該「情報面5上の信号は識別しては再生できなくなり、情報面2の再生信号には悪影響は与えない」ことや「品質の高い信号が再生できる。」は、検出回路で支障なく再生できることを意味するものであることが明らかであって、本願発明の「前記情報平面相互間の距離および前記情報平面の光学特性が当該情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して」いることを意図しているのが明らかといえ、且つ、本願発明の「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が、読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい」との条件を満たしている状態であるとすることができる。
よって、本願発明の前記構成Dは、引用例発明においても満たされているものである。

この点に関連し、請求人は、審判請求理由において具体的な反論をしていないところ、意見書(平成15年9月25日付け)及び意見書を補足する上申書(平成15年11月6日付け)において、
『引用文献は、十分に大きな値が要求されることを単に述べている。しかしながら、最小の値の重要性は認めていない。それは、とにかく「十分に大きな距離」を教えている。対照的に、光学記録担体の設計者は距離の最小値を知りたい。最小値は製造の可能性のために重要である。情報面間の透明層の厚さは、透明層の厚さの変化の厳密な許容に応ずることができるように小さくあるべきである。さらに、小さいことは、放射線が透明層を通過するとき、球形収差が読取りデバイスに補正を必要とするかもしれない放射線に導入される球形収差の量を減少させるために、非常に望ましい。
引用文献は、そのような小さな値をどのようにして決低するかを教えていない。パラメータの賢明な選択と計算に要求される近似のため、決定は通常の当業者のできる範囲ではない。100μmの最小距離の教示はある情報蓄積系に対しては正しいかもしれないが、しかし、引用文献に記載されていない系のパラメータに依存する他の情報蓄積系に対しては正しくない。』(「7.2」の項を参照)や、
『引用文献には、情報層間の距離が十分に大きく、走査されていない情報層上に記録されている信号が識別され、再生されるのを防止することが述べられている。これは正しくない規準である。これが実際の読取り装置に適用されている場合には、装置は如何なる情報層も正しく読取る事はできない。その理由は走査されていない情報層の信号が著しく大きくなるからである。引用文献は走査されていない情報層からの信号の重要な効果については何等示唆していない。この重要な効果は、走査されていない情報層からの信号とパラメーター形状に表わされた走査情報層からの読取り信号との間の干渉:(即ち)走査されていない情報層からの信号と走査情報層からの読取り信号との比である。これは本願発明の請求項1に述べられている。この比を装置のパラメーターQよりも小さくして、走査されていない情報層からの信号が検出系による読取り信号の正しい検出を不可能としないようにする必要がある。従って、走査されていない情報層からの信号が識別され、再生されるのを防止する要求は正しくない。』(「7.4」の項を参照)などと主張している。

しかしながら、本願発明は、「距離の最小値」に関して何ら特定するものではなく、単に「読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい」と規定しているに過ぎず、妨害比Qより小さければ本願発明に包含されることは明らかであって、「距離の最小値」である必要などないのである。
また、請求人の主張する「球形収差が読取りデバイスに補正を必要とするかもしれない放射線に導入される球形収差の量を減少させるために、非常に望ましい」(「球形収差」は「球面収差」の誤記と認められる。)ことは、本願明細書に記載されていないし、妨害比Qの近傍である「距離の最小値」を採用することは、本願発明の構成として特定されていないから、もともと作用効果として勘案できないものである。なお、引用例発明の実施態様において、「レーザー入射の途中に不足する厚さに相当する厚さの透明板9を挿入して所定の厚さを確保する」手段が説明されているが、そのような手段(構成)も含めて上記一致点として認定した情報記録再生系といえるので、上記手段を採用するか否かは、上記判断を左右する要因ではない。
そして、引用例発明の情報記録再生系において、悪影響無く高い品質で情報再生できるのであるから、その情報記録再生系において想定される妨害比Qよりも小さいことが明白であり、本願発明の前記構成Dを満たしていることから、請求人が主張するような「引用文献に記載されていない系のパラメータに依存する他の情報蓄積系に対しては正しくない」との主張は、引用文献の記載に基づかないものであって、そのような主張は上記判断を何ら左右するものではない。
また、請求人の「引用文献には、情報層間の距離が十分に大きく、走査されていない情報層上に記録されている信号が識別され、再生されるのを防止することが述べられている。これは正しくない規準である。これが実際の読取り装置に適用されている場合には、装置は如何なる情報層も正しく読取る事はできない。」との主張であるが、引用例発明において、読み取るべき情報面の信号は適切に読み取れるている旨明示されているのであり、上記主張は、正しく読み取れることを否定する根拠を示していない以上採用できない。
斯くの如く、上記請求人の主張は、失当であり、到底採用できるものではない。

よって、本願発明は、引用例発明と実質的に相違する点はなく、引用例発明と同一であると認める。

IV.むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。