2009年1月9日金曜日

取消2007-300693

【管理番号】第1187615号
【総通号数】第108号
(190)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】商標審決公報
【発行日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【種別】商標取消の審決
【審判番号】取消2007-300693(T2007-300693/J2)
【審判請求日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【確定日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【審決分類】
T131 .3  -Y  (Y09)
【請求人】
【氏名又は名称】ソースネクスト株式会社
【住所又は居所】東京都港区六本木6丁目10番1号
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】伊奈 達也
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
【被請求人】
【氏名又は名称】株式会社イーフロンティア
【住所又は居所】東京都新宿区榎町43―1
【代理人】
【弁護士】
【氏名又は名称】中村 勝彦
【代理人】
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 麻記子
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 景子
【事件の表示】
 上記当事者間の登録第4703657号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。
【結 論】
 本件審判の請求は、成り立たない。
 審判費用は、請求人の負担とする。
【理 由】
第1 本件商標
 本件登録第4703657号商標(以下「本件商標」という。)は、「Virus Killer」の欧文字を横書きした構成よりなり、平成14年9月17日に登録出願され、第9類「コンピュータ用ソフトウェアを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ・CD-ROM及びその他の記憶媒体,ダウンロード可能なコンピュータプログラム」を指定商品として、同15年8月22日に商標権の設定登録がされたものである。
 
第2 請求人の主張
 請求人は、商標法第51条第1項の規定により、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1ないし15号証を提出した。
1 請求の理由
(1)請求人の使用商標及び使用商品
 請求人は、更新料0円の「コンピュータウイルス対策ソフトウエア(セキュリティソフト)」(以下「請求人商品」という。)として「ウイルスセキュリティZERO」(以下「請求人の商標」ということがある。)を販売している。この商品の特徴は、従前のコンピュータウィルス対策ソフトウェアの慣行である更新料を毎年課金するシステムを廃止したことにあり、更新料がゼロであることを特徴づけるために「ZERO」の文字を商標の一部にしている。そして、当該商品が著名である証拠として、甲第1ないし11号証を提出する。
(2)本件商標と商標権者の使用商標との類似性
 商標権者は、「コンピュータウイルス対策ソフトウエア(統合セキュリティソフト)」(以下「商標権者使用商品」という。)として「ウィルスキラー ゼロ」を販売している(甲第14号証)。
 商標権者の使用商標の構成は、横書きの片仮名「ウィルスキラー」の下に、片仮名で大きく「ゼロ」と横書きしたもので(以下「商標権者の使用商標」ということがある。別掲(1))、「ウィルスキラー」と「ゼロ」は明らかに分離することが可能であり、また、「ウィルスキラー」のみの使用もしている(甲第14号証)。
 してみると、本件商標「Virus Killer」からは「ヴィルスキラー」の称呼が生じ、商標権者の使用商標「ウィルスキラー」の称呼と類似する。
 さらに、本件商標からは、「不正プログラムあるいは不正プログラムの発見・駆除を行うためのプログラムを記憶させた記録媒体」であることを認識させ、商標権者の使用商標からも同様の意味を生じるから、両者は観念上も類似する。
 したがって、商標権者の使用商標は本件商標に類似し、かつ、商標権者使用商品はその指定商品に含まれる。
(3)故意による混同を生ずる使用
 商標権者の使用商標の「ゼロ」の部分は、請求人商品の更新料がゼロであるという特徴に便乗しようとしている。また、商標権者は、請求人が販売店に提供している什器と同じ什器に商標権者使用商品を請求人商品と並べており、その評判に便乗しようとする意図が明らかである(甲第15号証:別掲(2))。
 2 弁駁
(1)商標権者の使用商標の構成
 商標権者の使用商標は、「ウイルスキラー」の各文字の大きさに対して、「ゼロ」の文字が約3.5倍あるものを二段横書きしたものであって、その大きさの違いがある二段の文字列が一体的であるとは考えられない。
 しかも、「ウイルスキラー」は、コンピュータウイルスを駆除(消去)するソフトウエアを意味していると認められるため、商品の品質、用途を表示するに過ぎないから、「ウイルスキラー」と「ゼロ」では、注意を惹く度合いに違いがあって分離が可能である。
(2)請求人の商品との混同のおそれ
(ア)請求人商品は既にコンピュータウイルス対策ソフトウエア(セキュリティソフト)として著名なトップブランドになっていることは特許庁において顕著であり、著名性についての反論は不要であろうと思料する。
(イ)請求人が主張するのは、数ある商標候補のなかで、請求人が初めて使用して成功した「ZERO」と同一の称呼が生じる「ゼロ」を商標権者が使ったことから、他人の業務に係る商品「ウイルスセキュリティZERO」と混同させる目的を窺わせるという点である。
(3)商標の類似性
 「ウイルスセキュリティZERO」と「ウイルスキラー ゼロ」は、それぞれ、「ZERO」と「ゼロ」の文字部分が要部であり、これらが類似であることは論を侯たない。
 また、被請求人は、商標の非類似性をシリーズ名という論拠で補強しようとしているようであるが、「ウイルスキラー」をシリーズ名というカテゴリーに分類したところで、「ゼロ」の文字を使用していることに疑いがない以上、「ゼロ」と「ZERO」が非類似である理由にはならないし、混同が生じる可能性がないという理由にもならない。
 さらに、被請求人は、「ウイルスキラー ゼロ」のパッケージの外観が、請求人の「ウイルスセキュリティZERO」のそれとは異なることを主張しているが、請求人が主張しているのは、「ウイルスキラー ゼロ」の文字の使用が請求人の商品と混同することであり、パッケージの外観が異なっていても商品の混同は生じ得る。
(4)故意
(ア)被請求人は、便乗自体は正当な競争行為であると述べており、混同の認識を否定している。
 しかし、商標権者は、数ある文字の組み合わせの中から「ゼロ」という文字を、本件商標と称呼を同じくする「ウイルスキラー」と組み合わせて、請求人の「ウイルスセキュリティZERO」と混同させる商標を付けたばかりか、「更新料0円」という宣伝文句・販促品記載方法も類似させ、さらには請求人の什器に陳列しており、これは正当な競争行為を逸脱している。
(イ)商標権者の陳列方法は、請求人が製作した什器を「ウイルスキラー ゼロ」の名前に張り替えて使用したり、「ウイルスセキュリティZERO」の販促品と酷似した販促品を使用したりするなど、購入者が「ウイルスセキュリティZERO」と「ウイルスキラー ゼロ」を混同させることをことさらに助長することを行ってきたことから、商標権者(被請求人)は、商品の混同が生じることを認識し、かつ認容していたと思料する。
 
第3 被請求人の答弁
 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1ないし3号証を提出した。
(1)本件商標と商標権者の使用商標との類似性
 本件商標は「Virus Killer」であり、商標権者の使用商標は、濃紺色で表した片仮名「ウイルスキラー」と「ゼロ」を上下二段にまとまりよく一体的に記載してなる「ウイルスキラーゼロ」であって、それに相応して「ウイルスキラーゼロ」との一連の称呼が生じるというべきであり、本件商標とは非類似である。
(2)請求人の商品との混同のおそれ
 請求人が主張しているのは、「ウイルスセキュリティZERO」が著名であること、商標権者が更新料ゼロという特徴に便乗しようとしていること、及び、評判に便乗しようとしていることに尽き、「混同のおそれ」には触れられていない。
 また、請求人は、請求人の商標が著名であるとして甲第1号証ないし第13号証を提出しているが、いずれも短期間の売上を示すものにすぎず、著名性の立証に十分なものとは考えられない。
 なお、更新料無料というサービス自体、請求人が独占できるようなものでないことは明らかであり、請求人以外のものがかかる特徴のサービスを提供すること自体は、混同のおそれとは関係なく、何ら非難を受けるべき行為ではない。
(ア)商標権者の使用商標と請求人の商標との類似性
 請求人の商標は、片仮名「ウイルスセキュリティ」と、欧文字「ZERO」を結合させてなり、全体で一体不可分の商標と容易に理解されるというべきである。これに対して、商標権者の使用商標である「ウイルスキラーゼロ」は、外観上一体的に表記されており、両商標は、アルファベットと片仮名の違いも含め、互いに異なる外観的印象により認識され、外観上類似しないというべきである。
 「ウイルスキラー」には、「ウイルスを殺す」との意味が容易に想起されるのに対し、「ウイルスセキュリティ」には、「ウイルスから保護をする」との観念が生じ、両商標は、全体として共通の観念を生じさせるものでないことから、観念上も類似しないというべきである。
 さらに、商標権者の使用商標より生ずる称呼は「ウイルスキラーゼロ」であり、請求人の商標より生ずる称呼「ウイルスセキュリティゼロ」とは、音構成上明らかに相違するものであり、称呼上類似しないというべきである。
 以上のように請求人の商標と商標権者の使用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(イ)シリーズ名
 上述の商標の非類似性は、「ウイルスキラー」と「ウイルスセキュリティ」が、それぞれ数年間にわたって消費者に浸透を図ってきたシリーズ名であることから、コンピュータウイルス対策ソフトウエア(セキュリティソフト)を含むソフトの購入者は、まず冠となっているシリーズ名で各競合商品を見分けるものである以上、「ウイルスキラー」と「ウイルスセキュリティ」という明らかに異なるシリーズ名を使っている両商標が非類似であり混同が生ずる可能性がない。
(ウ)パッケージの外観
 請求人と商標権者の商品パッケージの外観は異なる印象を与え、その顕著な相違からしても、混同を生じるおそれはない。
(3)商標権者の故意
 請求人は、「便乗」という言葉で、故意を主張しようとしているように読むことができるが、便乗ということそれ自体は、混同の故意と無関係であり、ビジネスプランとして、同じような特徴を有する競合商品を市場に出すことは正当な競争行為であって、商標権者においては、自社ブランドの更新料無料の商品を売り出し、ヒットさせることが目的であり、混同を生じることの認識は皆無である。
 
第4 当審の判断
1 本件商標と商標権者の使用商標との類否及び両商標の商品の類否
(1)本件商標は、「Virus Killer」の欧文字により構成されてなり、その指定商品は、第9類「コンピュータ用ソフトウェアを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープ・CD-ROM及びその他の記憶媒体,ダウンロード可能なコンピュータプログラム」とするところ、その構成中前半の「Virus」の文字からは、その指定商品との関係より、コンピュータウイルス(Computer virus)を理解し得るものであって、同じく後段の「Killer」の欧文字からは「殺し屋」等の意味を理解させるものである。
 してみると、本件商標からは「ウイルスキラー」の称呼が生じ、指定商品との関係より、「コンピュータウイルスの殺し屋」程の意味合いを想起させるものといえる。
(2)商標権者の使用商標についてみるに、商標権者使用商品の販売に係るwebサイト情報(甲第14号証)及び展開状況例(甲第15号証)によれば、商標権者は(イ)「ウイルスキラー」の文字よりなる商標(ロ)「ウイルスキラーゼロ」の文字よりなる商標(ハ)「ウイルスキラー」の文字と、大きく顕著に表してなる「ゼロ」の文字とを上下二段に結合させた商標(別掲(1))を、それぞれ使用している(なお、(イ)と(ハ)の文字は青色で、(ロ)は白抜きで表示されている。以下、(イ)ないし(ハ)をまとめて、「商標権者使用商標」という。)。 
 そして、該webサイトや展開状況例には、「更新料のいらない『統合セキュリティソフト』」、「更新料0円」及び「更新料0円で安心」等の宣伝語句がそれぞれ掲載されていることが認められるところから、商標権者使用商標に接する取引者、需要者において、その構成中の「ゼロ」の文字は、更新料0円の「0」(ゼロ)を意味する語として認識、把握されるというべきであり、商標権者使用商標における自他商品の識別標識として機能するのは「ウイルスキラー」の文字にあるとみるのが自然である。
 してみると、商標権者使用商標より、「ウイルスキラー」及び「ウイルスキラーゼロ」の称呼を生じ、「コンピュータウイルスの殺し屋」、「コンピュータウイルスの殺し屋 更新料0円」程の意味合いを想起するということが相当である。
(3)そうすると、本件商標と商標権者使用商標とは、「ウイルスキラー」の称呼と、「コンピュータウイルスの殺し屋」の意味合いをそれぞれ共通にする商標であるから、外観において差異があるとしても、両者は類似する商標であるということができ、その使用商品に係るコンピュータウイルス対策ソフトウエア(統合セキュリティソフト)は本件商標の指定商品に包含されるものである。
2 請求人の商標及び使用商品
 甲第5ないし8号証(表題を、「BCNランキング」「SankeiWEB」「デジタルARENA」とするwebサイト情報)によれば、請求人は、更新料ゼロ(0)円を特徴とする請求人商品「コンピュータウイルス対策ソフトウエア(セキュリティソフト)」について、その包装箱の正面中央に「ウイルス」「セキュリティ」「ZERO」の各文字(「ZERO」は黄い文字で、他の文字は白抜き文字で表示している。)を三段に横書きし、側面に「ウイルスセキュリティZERO」の文字を白抜きで縦書きし、正面下部に「年間更新料0円」「更新料0円」と表示している。そして、前記甲各号証において、請求人商品を紹介する際「ウイルスセキュリティZERO」と横書きして表示している(以下、前記の三段に横書き、縦書き、横書きした「ウイルスセキュリティZERO」をまとめて、「請求人商標」という。)
 ところで、請求人商標は、その構成中「ウイルス」の片仮名文字は、使用されている商品との関係より、コンピュータウイルス(Computer virus)を想起し、同じく「セキュリティ」の片仮名文字からは「安全、防御」等の意味を理解すると共に、「ウイルス」と結合した「ウイルスセキュリティ」の文字より「コンピュータウイルスからの防御」を想起し得るものである。また、その構成中「ZERO」の欧文字は「(数の)零、(数、量,価値などが)全く無いこと」等の意味を有する親しまれた平易な英単語であって、その片仮名表記である「ゼロ」や数字の「0」と互換性のある語としても定着しているものといえる。
 そして、請求人商標「ウイルスセキュリティZERO」の文字中、「ZERO」の文字は、甲各号証における雑誌、webサイト情報などの紹介記事に照らせば、当該コンピュータウイルス対策ソフトウエア(セキュリティソフト)の更新料が「0円」であることを強調し、かつ端的に示すためのものと認識させるといえるから、それのみでは自他商品の識別標識としては機能し得ないものとみるのが相当であり、請求人商標における自他商品の識別標識として機能し得るのは「ウイルスセキュリティ」の文字にあるといわなければならない。
 そうすると、請求人商標は、「ウイルスセキュリティZERO」の文字全体に相応して「ウイルスセキュリティゼロ」の称呼を生じ、「ウイルスセキュリティ」の文字より「ウイルスセキュリティ」の称呼をも生ずるものであり、それぞれの文字より「コンピュータウイルスからの防御」、「コンピュータウイルスからの防御 更新料0円」程の意味合いを想起することができる。
3 商標権者使用商標と請求人商標との類否
 商標権者使用商標は、上述のとおり、「ウイルスキラー」及び「ウイルスキラーゼロ」の称呼が生じ、「コンピュータウイルスの殺し屋」、「コンピュータウイルスの殺し屋 更新料0円」程の意味合いを想起するのに対し、請求人商標は、上述のとおり、「ウイルスセキュリティゼロ」及び「ウイルスセキュリティ」の称呼を生じ、「コンピュータウイルスからの防御」、「コンピュータウイルスからの防御 更新料0円」程の意味合いを想起するものといえる。
 そうすると、商標権者使用商標より生ずる「ウイルスキラーゼロ」及び「ウイルスキラー」の称呼と、請求人商標より生ずる「ウイルスセキュリティゼロ」及び「ウイルスセキュリティ」の称呼とは、いずれも、「キラー」と「セキュリティ」の音に明らかな差異があり、称呼上聞き誤るおそれがない。
 また、商標権者使用商標と請求人商標の観念についても、前者より「コンピュータウイルスの殺し屋」、「コンピュータウイルスの殺し屋 更新料0円」程の意味合いを、後者より「コンピュータウイルスからの防御」、「コンピュータウイルスからの防御 更新料0円」程の意味合いをそれぞれ想起させるものの、「殺し屋」と「防御」の違いにより、相紛れるおそれがない。
 さらに、両商標の外観においても、「キラーゼロ」と「セキュリティZERO」の違いがあり、通常の注意力をもってすれば、見誤るおそれはない。
 したがって、商標権者使用商標と請求人商標とは、その外観、称呼及び観念において相紛れるおそれがない非類似の商標といわなければならない。
4 出所の混同について
 甲各号証によれば、請求人商品に使用する請求人商標「ウイルスセキュリティZERO」は、例えば「日経TRENDY」(2006年12月号:甲第1号証)に掲載の「06年 ヒット商品 ベスト30」と題する頁において、当該商品が第16位にランクされていること、及びそのヒットの概要として「既存のビジネスモデルを崩す『更新料ゼロ』…」の記載、「DIME」(12/19 2006:甲第2号証)に掲載の「2006下半期『勝ち組』ヒット商品徹底分析」として紹介されている箇所に「更新料0円」、「更新料ゼロで売り上げ2.5倍」等の記載、表題を「BCNランキング」とするwebサイト情報(甲第5号証)に「[売れ筋速報]ゼロ円更新・3台利用・バックアップ、セキュリティソフトに新時代」の見出しの下、各セキュリティソフトの紹介情報において、請求人商品がセキュリティソフトの販売本数シェアで順位1位に掲げられ、その紹介欄に当該商品パッケージと共に「…『ウイルスセキュリティZERO』は同社のセキュリティソフト『ウイルスセキュリティ』から、1年という更新期限をなくしたもの…」の記載、及び表題を「Sankeiweb」とするwebサイト情報(甲第6号証)に「更新料ゼロでヒット ウイルスセキュリティZERO」の見出しの下、「…この常識を覆し、更新作業をなくして更新料ゼロにした。きっかけは…『どうしてセキュリティーソフトだけ更新料があるんだろ。ほかのソフトは1回買えばずっと無料で使えるのに』…」の記載が認められるところである。
 してみると、請求人商標「ウイルスセキュリティZERO」は、請求人の業務に係る商品「コンピュータウイルス対策ソフトウエア(セキュリティソフト)」を表示する商標として、この種商品分野の取引者、需要者間に広く知られていると認めることができる。
 しかしながら、前記甲各号証によっては、請求人商標を表示するために「ZERO」の文字のみで使用されている証左は見当たらないから、「ZERO」の文字が請求人の業務に係る商品を表示する商標として、取引者、需要者間に広く知られていると認めることはできない。
 加えて、商標権者使用商標は、上述のとおり、請求人商標と類似しない別異なものであるから、商標権者が商標権者使用商標を商標権者使用商品「コンピュータウイルス対策ソフトウエア(統合セキュリティソフト)」について使用しても、取引者、需要者は、請求人商標を直ちに連想又は想起するものとはいえず、その商品が請求人又は請求人と関係のある者の業務に係るものであるかのように出所の混同を生ずるおそれがあるとは認めることはできない。
5 故意について
 請求人は、商標権者使用商標の「ゼロ」の部分は、請求人商品の更新料がゼロであるという特徴に便乗し、数ある文字の組み合わせの中から「ゼロ」という文字を本件商標と称呼を同じくする「ウイルスキラー」と組み合わせているばかりか、「更新料0円」という宣伝文句・販促品記載方法も類似させ、さらには請求人の什器に陳列しており、購入者が「ウイルスセキュリティZERO」と「ウイルスキラー ゼロ」を混同させることをことさらに助長することを行ってきたことから、商標権者は、商品の混同が生じることを認識し、かつ認容していた旨述べている。
 しかしながら、商標権者使用商標と請求人商標に接する需要者は、両商標の構成中に「ゼロ」又は「ZERO」の文字が存在することを認識するとしても、それぞれの文字は、甲各号証における雑誌、webサイト情報などの紹介記事に照らせば、当該コンピュータウイルス対策ソフトウエア(セキュリティソフト)の更新料が「0円」であることを強調し、かつ端的に示すためのものと認識させるといえるから、「ウイルスキラー」及び「ウイルスセキュリティ」の文字と分離、独立して商品の識別標識として機能し得ないものである。
 また、「更新料0円」という宣伝文句等は、当該コンピュータウイルス対策ソフトウエア(セキュリティソフト)の更新料が無料であることを需要者に端的に訴える語句としてこの種商品を販売する上で容易に採択されるものといえる。
 そうすると、たとえ、被請求人が、商標権者使用商標を使用するについて、請求人商標を知っていたとしても、請求人の業務に係る商品とその出所について混同を生じさせるおそれがあることを認識しつつ、故意に、商標権者使用商標を使用したものと認めることはできない。
 また、請求人の提出に係る甲各号証によるも、他に、被請求人が商標権者使用商標を使用するについて、故意に請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたと認定するに足りる証拠は見当たらない。
6 むすび
 以上のとおり、商標権者が、故意に指定商品に含まれる商品についての本件商標に類似する商標の使用であって他人である請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとは認めることができない。
 したがって、商標権者によるその使用商標の使用は、商標法第51条第1項の要件に該当しないというべきであるから、本件商標の登録は、取り消すことができない。
 よって、結論のとおり審決する。
【審理終結日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【結審通知日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【審決日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【審判長】 【特許庁審判官】芦葉 松美
【特許庁審判官】伊藤 三男
【特許庁審判官】岩崎 良子

別掲
(1)商標権者使用商標の一例(文字は青色で表示されている。)
 



 
(2)同じ什器に商標権者使用商品と請求人商品とを並べている状況
  <写真は、IPDLでご確認ください(著作権の問題が発生しうるので。。。)>
 
(210)【出願番号】商願2002-78876(T2002-78876)
(220)【出願日】平成14年9月17日(2002.9.17)
(111)【登録番号】商標登録第4703657号(T4703657)
(151)【登録日】平成15年8月22日(2003.8.22)
(561)【商標の称呼】ウイルスキラー、ビールスキラー
【最終処分】不成立
【前審関与審査官】石田 清


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