2009年1月5日月曜日

無効2008-880009

【管理番号】第1185939号
【総通号数】第107号
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】意匠審決公報
【発行日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【種別】無効の審決
【審判番号】無効2008-880009(D2008-880009/J3)
【審判請求日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【確定日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【審決分類】
D1113.113-Z  (F4-5)
【請求人】
【氏名又は名称】吉川紙業株式会社
【住所又は居所】福島県伊達郡桑折町成田字元宿2
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
【被請求人】
【氏名又は名称】株式会社斎藤紙店
【住所又は居所】宮城県仙台市若林区連坊小路63番地
【事件の表示】
 上記当事者間の登録第1090175号「包装用箱」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
【結 論】
 登録第1090175号の登録を無効とする。
 審判費用は被請求人の負担とする。
【理 由】
第1. 請求の趣旨及びその理由の要点
 請求人は,「登録第1090175号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」旨請求し,甲第1号証及び甲第2号証の書証を提出し,請求の理由として要旨以下のように主張する。
1.本件登録意匠の手続の経緯
 本件登録意匠は,平成12年1月27日に意匠登録出願され(意願2000-1053),平成12年9月1日に設定の登録がされたものである(意匠登録第1090175号)。
2.意匠登録無効の理由の要点
 本件登録意匠は,甲第1号証の意匠又は甲第2号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号により,無効とすべきである。
3.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠の説明
 本件登録意匠は,別紙第1の意匠公報に示す通り,意匠に係る物品を「包装用箱」とするものであり,使用状態参考図において「瓶」の包装に使用する例を示しているが,その用途が特に限定されていない。そして,意匠に係る物品の形状は,別紙1の意匠公報に示す通りであり,次の形態を備える(別紙第1参照)。
(a)有底角筒形の胴部と,胴部の背面板の上端に連設された外蓋と,胴部の正面板の上端に連設された内蓋と,両側面板の上端に連設された側面フラップとを有する。
(b)有底角筒形の胴部は,縦長で,横幅が奥行きの2倍の長方形の開口部を有する。
(c)背面板の上端縁には,胴部の上端開口部を閉塞する外蓋が連設され,外蓋の先端に差し込み片が設けられている。
(d)正面板の上端縁には,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と,この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と,この内蓋の先端に背面板の内側に重なるように上方を折り返される立ち上げ片とが設けられている。内蓋の先端縁の中央にはコ字形の切欠きが設けられている。
(e)両側面板の上端縁には,開口部の横幅の約1/2の長さの側面フラップが設けられている。
(2)甲第1号証の意匠の説明
 本件登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である実開昭58-163430号公報(甲第1号証)の図面には,固形洗剤収納容器の包装箱の意匠(以下,「公知意匠1」という。)が記載され,次の形態を備える。
(a)有底角筒形の胴部と,胴部の背面板の上端に連設された外蓋と,胴部の正面板の上端に連設された内蓋と,両側面板の上端に連設された側面フラップとを有する。
(b)有底角筒形の胴部は,縦長で,横幅が奥行きの2倍の長方形の開口部を有する。
(c)背面板の上端縁には,胴部の上端開口部を閉塞する外蓋が連設され,外蓋の先端に差し込み片が設けられている。
(d)正面板の上端縁には,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と,この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と,この内蓋の先端に背面板の内側に重なるように上方を折り返される立ち上げ片とが設けられている。
(e)両側面板の上端縁には,開口部の横幅の約1/2の長さの側面フラップが設けられている。
(3)甲第2号証の意匠の説明
 本件登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である実開昭51-17133号公報(甲第2号証)の図面には,コーンカップの包装箱の意匠(以下,「公知意匠2」という。)が記載され,次の形態を備える。
(a)有底角筒形の胴部と,胴部の背面板の上端に連設された外蓋と,胴部の正面板の上端に連設された内蓋と,両側面板の上端に連設された側面フラップとを有する。
(b)有底角筒形の胴部は,縦長で,横幅が奥行きの2倍の長方形の開口部を有する。
(c)背面板の上端縁には,胴部の上端開口部を閉塞する外蓋が連設され,外蓋の先端に差し込み片が設けられている。
(d)正面板の上端縁には,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と,この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と,この内蓋の先端に背面板の内側に重なるように上方を折り返される立ち上げ片とが設けられている。内蓋には左右に楕円形の貫通孔が2個形成されている。
(e)両側面板の上端縁には,先端縁に折り返し片が形成された側面フラップが設けられ,両側面フラップを折り込んだ状態で先端の折り返し片が突き合うようになっている。
(4)本件登録意匠と公知意匠1との比較
 意匠に係る物品については,本件登録意匠は,使用状態参考図において「瓶」の包装に使用する例を示し,公知意匠1は,固形洗剤収納容器に使用する包装箱である。しかしながら,本件登録意匠は,意匠に係る物品を単に「包装用箱」とするものであり,その用途を特に限定するものでないので,両意匠共に,意匠に係る物品については,「包装用箱」で共通する。
 本件登録意匠と公知意匠1の意匠の形態は,(A)有底角筒形の胴部と,胴部の背面板の上端に連設された外蓋と,胴部の正面板の上端に連設された内蓋と,両側面板の上端に連設された側面フラップとを有する点,(B)有底角筒形の胴部は,縦長で,横幅が奥行きの2倍の長方形の開口部を有する点,(C)背面板の上端縁に,胴部の上端開口部を閉塞する外蓋と,外蓋の先端に差し込み片を設けている点,(D)正面板の上端縁に,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と,この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と,この内蓋の先端に背面板の内側に重なるように上方を折り返される立ち上げ片を設けている点が共通している。
 一方,両意匠間には,(イ)正面板の上端縁に設けられる垂下片と立ち上げ片の長さが,公知意匠1の方が本件登録意匠よりもその幅が長く形成され,その結果として,外蓋と内蓋との間の空間が,公知意匠1の方が本件登録意匠よりも広くなっている点において差異がある。
(5)本件登録意匠と公知意匠2との比較
 公知意匠2は,コーンカップの包装箱に関するものであり,本件登録意匠は,使用状態参考図において「瓶」の包装に使用する例を示しているものの,意匠に係る物品を単に「包装用箱」とし,その用途を特に限定するものでないので,両意匠共に,意匠に係る物品については,「包装用箱」で共通する。
 本件登録意匠と公知意匠2の意匠の形態は,(A)有底角筒形の胴部と,胴部の背面板の上端に連設された外蓋と,胴部の正面板の上端に連設された内蓋と,両側面板の上端に連設された側面フラップとを有する点,(B)有底角筒形の胴部は,縦長で,横幅が奥行きの2倍の長方形の開口部を有する点,(C)背面板の上端縁に,胴部の上端開口部を閉塞する外蓋と,外蓋の先端に差し込み片を設けている点,(D)正面板の上端縁に,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と,この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と,この内蓋の先端に背面板の内側に重なるように上方を折り返される立ち上げ片を設けている点が共通している。
 一方,両意匠間には,(ロ)両側面板の上端縁に設けた側面フラップの先端が,本件登録意匠は切りっぱなし形状になっているのに対し,公知意匠2の場合は,先端縁に折り返し片が形成され,この折り返し片が両側面フラップを折り込んだ状態で突き合うようになっている点,(ハ)公知意匠2の内蓋には,左右に楕円形の貫通孔が2個形成されている点において差異がある。
(6)類否判断
 本件登録意匠と,公知意匠1並びに公知意匠2の共通点と差異点を総合して,これらの意匠の類否を意匠全体として検討すると,これらの意匠において共通するとした態様のうち,(A),(B),(D)の態様は,4角形の包装用箱として極普通の態様のものであるから,意匠としての特徴は,(C)の内蓋を外蓋に対して空間を空けて設けた点にあるといわざるを得ず,これらの意匠はこの点において共通し,箱形態の特徴としてこの共通点は類否判断に及ぼす影響は大きいものと考える。
 本件登録意匠と公知意匠1の間には,(イ)の内蓋と外蓋の間の空間の幅に差異があるが,内蓋を外蓋に対して空間を空けて設けるという箱形態の特徴からすると,この幅の差異は,全体として類否判断に与える影響は微弱なものである。
 また,本件登録意匠と公知意匠2の間には,(ロ)の両側面フラップの形状と(ハ)の内蓋の貫通穴の有無の点で差異があるが,内蓋を外蓋に対して空間を空けて設けるという箱形態の特徴からすると,これらの差異も,全体として類否判断に与える影響は微弱なものである。
 よって,本件登録意匠と公知意匠1,本件登録意匠と公知意匠2は,それぞれ意匠に係る物品が共通し,その形態について,両意匠の共通点は,類否判断に大きな影響を及ぼすものであり,差異点は,共通点を凌駕することができない程度の微差と考えられるので,両意匠は類似するものである。
4.むすび
 したがって,本件登録意匠は,その出願前公然知られた公知意匠1又は公知意匠2と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号により,無効とすべきである。
第2.被請求人の答弁
1.答弁の趣旨
 被請求人は「登録第1090175号意匠の登録は有効である。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」旨答弁し,その理由として要旨以下のように主張する。
2.理由
(1)本件登録意匠と公知意匠1について
 本件登録意匠は使用状態参考図において「瓶」の包装に使用する例を示しており,固形洗剤収納に使用する包装用箱用に創作したものではない。
 本件登録意匠と公知意匠1の形態は,請求人主張の共通点(A)と(B)で共通するが,(C)及び(D)は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)の点で違う。
 すなわち,本件登録意匠は,背面板の上端縁から延設された外蓋とその先端の差し込み片で形成されるコの字(X)と,正面板の上端縁に,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋,さらにこの内蓋の先端に背面板の内面に重なるように上方に折り返される立ち上がり片によって形成される逆コの字(Y)とが(すなわち,コの字(X)と逆コの字(Y)とが)たがいにがっちりとスクラムを組み合い,瓶が逆さまから落下した場合の衝撃を(X)+(Y)とで緩和させ,両側面板の上端縁に設けた2枚のフラップで,さらに,2度,3度とその衝撃を緩和させて,瓶が壊れにくいように創作された,基幹部分意匠(Z)である。
 公知意匠1は,(C)背面板の上端縁に,胴部の上端開口部を閉塞する外蓋と,外蓋の先端に差し込み片を設けているが,外蓋の先端に差し込み片を設けている片の長さが短く,正面板の上端縁に正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片の長さが長く形成されている点(あ)が明らかである。公知意匠1の正面板の上端縁より延設されている部分の縦寸法がかなり長い点(い)がある。
 上記(あ)及び(い)のとおり,公知意匠1は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)の要件を満たしておらず,瓶が逆さまから落下した場合に十分に緩衝能力を発揮できず破損に至ってしまう。公知意匠1はそもそも,使用目的が固形洗剤収納用に考案されたもので,この仕様で十分なのであり,従来の箱の外蓋同様,先端の差し込み片がちょっと入っている仕様になっているだけである。この点が欠如しては本件登録意匠の出願の意味がなく,この点が本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)との大きな相違点である。
 本件登録意匠の外蓋と内蓋との間の空間は約3センチメートルで,公知意匠1の空間はその2倍の6センチメートルであり,十分な緩衝能力がない。
 よって,本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)において差異があり,本件登録意匠の登録は有効である。
(2)本件登録意匠と公知意匠2について
 本件登録意匠は使用状態参考図において「瓶」の包装に使用する例を示しており,コーンカップを使用する包装箱用に創作したものではない。
 本件登録意匠と公知意匠2の形態は,請求人主張の共通点(B)と(C)で共通するが,(A)及び(D)は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)の点で違う。
 請求人は,(A)において,両側面板の上端に連設された側面フラップとを有する点が共通すると主張しているが,本件登録意匠と公知意匠2の側面フラップの考案目的が違う。請求人も認めているように,公知意匠2の場合は,先端縁に折り返し片が形成され,この折り返し片が両側面フラップを折り込んだ状態で突き合うようになっている点で,図面上その違いは明白である。一方,(D)については,公知意匠2には,2個の嵌止穴が空いている点が大きな相違点で,この点は請求人も認めている。
 そもそも,公知意匠2の考案目的はコーンカップの包装箱用に考案されたもので,コーンカップの尾端部を保護する目的で,嵌止穴を設けてコーンカップの尾端部を挿入し,両側面のフラップの先端辺で両方から垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋に垂直に押し付け部屋を2分割し,コーンカップの尾端部が外側蓋板に直接当たらないように考案されている。しかし,本件登録意匠はこれとは正反対で,瓶が当たるように創作されている点が大きく違っている。更に,公知意匠2ではこの嵌止穴なくしては,この考案の目的はありえないが,本件登録意匠ではこの嵌止穴は不必要であり,かえって,この嵌止穴があったのでは瓶が逆さまから落下した場合の緩衝能力が半減してしまう為である。
 一見,本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)を満たしているかのように思えるが,公知意匠2の,この嵌止穴は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)にとって,致命傷である。
(3)類比の判断
 両意匠は,ただ闇雲に請求人が主張するような単純な空間ではない。上記のように,本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)が全てを物語っている。よって,内蓋を外蓋に対して空間を空けて設けた点にあるといわざるを得ずと,判断される点は大きな間違いであり,そもそも,本件登録意匠の内蓋を外蓋に対して空間を空けて設けた目的と公知意匠1及び公知意匠2のそれは意匠としての創作目的が当初から異なっているのである。
 さらに,本件登録意匠と公知意匠1との間の(イ)内蓋と外蓋の間の空間部分の幅の差異が,全体として類比判断に与える影響が顕著である。前述同様に,本件登録意匠は基幹部分意匠(Z)なくして語れない。よって,本件登録意匠と公知意匠1の間にはこのように創作された空間が顕著である。
 また,本件登録意匠と公知意匠2との間の(ロ)両側面のフラップの形状と(ハ)内蓋の貫通穴の有無の点の差異も全体として類比判断に与える影響は大きい。
 本件登録意匠は公知例1,2と類似していない。本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)を公知意匠1は備えていない。また,公知意匠2には一見,本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)を備えているかのように思えるが,この嵌止穴は本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)にとって,致命傷であり,内蓋を外蓋に対して空間を空けて設けた点の創作目的が違っているので,その創作目的から考察すると,公知意匠2にも本件登録意匠の基幹部分意匠(Z)を備えていない,と言わざるを得ない。
 よって,本件登録意匠は公知例1,2と類似しない。
3.むすび
 したがって,本件登録意匠は,その出願前公然知られた公知意匠1又は公知意匠2と類似しないものであるから,意匠法第3条第1項第3号により,無効とすべきものではない。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
 本件登録意匠は,平成12年1月27日に意匠登録出願され(意願2000-1053),平成12年9月1日に設定の登録がされたもので,その願書及び添付図面の記載によれば,意匠に係る物品が「包装用箱」で,その形状が下記のとおりのものである(別紙第1参照)。
 すなわち,(a)基本的構成態様は,胴部を有底角筒形とし,胴部の上端開口部に,胴部の背面板の上端に連設された外蓋と,胴部の正面板の上端に連設された内蓋と,両側面板の上端に連設された側面フラップとを設け,上端開口部の外蓋と内蓋との間に扁平直方体状空間を設けたものである。そして,具体的構成態様について,(b)有底角筒形の胴部は,高さが奥行きの約3倍(詳細には約3.3倍)の縦長で,上端の開口部は,横幅が奥行きの約2倍の長方形に形成し,(c)外蓋は,開口部と同じ大きさの長方形状で,外蓋の先端に同じ横幅の差し込み片が設けられ,差し込み片の角をやや隅丸に形成し,(d)内蓋は,開口部と同じ大きさの長方形状で,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と,この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と,この内蓋の先端に背面板の内側に重なるように上方を折り返される立ち上げ片とを設け,その横幅全体を同幅とし,立ち上げ片の角をやや隅丸に形成し,(e)両側面フラップは,幅が開口部の奥行きと同じ,長さが開口部の横幅の約1/2で,全体略正方形状に形成し,(f)外蓋と内蓋との間の扁平直方体状空間は,断面視略コ字状の外蓋と,外蓋と略対称形状の断面視略逆コ字状の内蓋との組み合わせで形成され,空間の高さを箱全体の高さの約10分の1の幅狭に形成したものである。
2.公知意匠1
 公知意匠1は,本件登録意匠の出願前に日本国内において頒布された公開実用新案公報に掲載された実用新案出願公開昭和58年第163430号の第1図及び第2図に記載された意匠に係る物品「固形洗剤収納容器の包装箱」の意匠であり,その形状が下記のとおりのものである(別紙第2参照)。
 すなわち,(a)基本的構成態様は,胴部を有底角筒形とし,胴部の上端開口部に,胴部の背面板の上端に連設された外蓋と,胴部の正面板の上端に連設された内蓋と,両側面板の上端に連設された側面フラップとを設け,上端開口部の外蓋と内蓋との間に扁平直方体状空間を設けたものである。そして,具体的構成態様について,(b)有底角筒形の胴部は,高さが奥行きの約3倍(詳細には約2.9倍)の縦長で,上端の開口部は,横幅が奥行きの約2倍の長方形に形成し,(c)外蓋は,開口部と同じ大きさの長方形状で,外蓋の先端に同じ横幅の差し込み片が設けられ,差し込み片の角をやや隅丸に形成し,(d)内蓋は,開口部と同じ大きさの長方形状で,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と,この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と,この内蓋の先端に背面板の内側に重なるように上方を折り返される立ち上げ片とを設け,その横幅全体を同幅とし,立ち上げ片の角をやや隅丸に形成し,(e)両側面フラップは,幅が開口部の奥行きと同じ,長さが開口部の横幅の約1/2で,全体略正方形状に形成し,(f)外蓋と内蓋との間の扁平直方体状空間は,断面視略コ字状の外蓋と,外蓋と略対称形状の断面視略逆コ字状の内蓋(外蓋の差し込み片は内蓋の立ち上げ片よりやや短い)との組み合わせで形成され,空間の高さを箱全体の高さの約5分の1の幅狭に形成したものである。
3.本件登録意匠と公知意匠1との対比
 本件登録意匠と公知意匠1とを対比すると,意匠に係る物品が「包装用箱」と「固形洗剤収納容器の包装箱」であって,いずれも「包装用箱」(意匠法施行規則別表第1の「三十二 包装用容器,包装用紙等」の下欄の「物品の区分」参照。)であり共通する。そして,形態については,以下の共通点と差異点が認められる。
(1)共通点
 両意匠は,(a)胴部を有底角筒形とし,胴部の上端開口部に,胴部の背面板の上端に連設された外蓋と,胴部の正面板の上端に連設された内蓋と,両側面板の上端に連設された側面フラップとを設け,上端開口部の外蓋と内蓋との間に扁平直方体状空間を設けた基本的構成態様において共通する。そして,具体的構成態様について,(b)有底角筒形の胴部は,高さが奥行きの約3倍の縦長で,上端の開口部は,横幅が奥行きの約2倍の長方形に形成した点,(c)外蓋は,開口部と同じ大きさの長方形状で,外蓋の先端に同じ横幅の差し込み片が設けられ,差し込み片の角をやや隅丸に形成した点,(d)内蓋は,開口部と同じ大きさの長方形状で,正面板の内面に重なるように下方に折り返される垂下片と,この垂下片の先端に外蓋との間に平行な隙間を空けて設けられる内蓋と,この内蓋の先端に背面板の内側に重なるように上方を折り返される立ち上げ片とを設け,その横幅全体を同幅とし,立ち上げ片の角をやや隅丸に形成した点,(e)両側面フラップは,幅が開口部の奥行きと同じ,長さが開口部の横幅の約1/2で,全体略正方形状に形成した点,(f)外蓋と内蓋との間の扁平直方体状空間は,断面視略コ字状の外蓋と,外蓋と略対称形状の断面視略逆コ字状の内蓋との組み合わせで形成され,空間の高さを箱全体の高さに比して幅狭に形成した点において共通する。
(2)差異点
 (A)本件登録意匠は,上端開口部の空間を形成する,外蓋の断面視略コ字状と,内蓋の断面視略逆コ字状とが対称形状であるのに対し,公知意匠1は,外蓋の差し込み片は内蓋の立ち上げ片よりやや短い点,及び(B)上端開口部の空間の高さが,本件登録意匠は,箱全体の高さの約10分の1であるのに対し,公知意匠1は,約5分の1である点に差異がある。
4.本件登録意匠と公知意匠1との類否判断
 意匠の類否を判断するに当たっては,両意匠の共通点及び差異点について,意匠全体に占める割合,物品特性,及び公知意匠を参酌し,美感の観点から看者の注意を引く部分か否かを評価して,意匠全体として両意匠の全ての共通点及び差異点を総合的に観察した場合に,需要者に対して共通する美感を起こさせるか否かを判断する。
 そこで検討するに,この種包装用箱においては,箱形状全体について注目するとともに,この種包装用箱の使用において物品を包装する際には,開閉する蓋部の具体的構成態様についても注目しつつ意匠全体を観察するものである。
 そうすると,本件登録意匠と公知意匠1の共通する基本的構成態様(a)すなわち胴部を有底角筒形とし,外蓋と内蓋との間に扁平直方体状空間を設けた構成態様は,公知意匠1の公開前から既に見られる態様であって(例えば,(1)実公昭37-33089号の第2図ないし第5図に表された意匠,(2)実公昭39-32186号の第1図ないし第5図に表された意匠,(3)実全昭47-37227号の第1図及び第2図に表された意匠,(4)実全昭49-43331号の第1図ないし第5図に表された意匠。別紙第3参照。),格別特徴的な態様とはいえないが,意匠全体の大部分を占め,両意匠の造形的な骨格を形成する構成態様であり看者の注意を引くものである。そして,両意匠は,共通点(c)ないし(f)のように,開閉する蓋部の具体的構成態様のほとんど全部の態様が共通するものである。したがって,両意匠は,看者の注意を引く基本的構成態様,及び具体的構成態様のほとんどにおいて共通性が顕著であり,両意匠は全体として看者に共通する美感を起こさせるものである。
 これに対し,両意匠の差異は微弱であって,両意匠の共通する美感を変更するまでのものではない。
 すなわち,差異点(A)公知意匠1の外蓋の差し込み片がやや短い点は,意匠全体から観れば全く細部に係る微差でしかなく,看者の注意を引くものではない。また,差異点(B)上端開口部の空間の高さの差異は,外蓋と内蓋との間に扁平直方体状空間を設けたという共通する構成態様の中での僅かな高さの変更に係る差異であって,一部位の構成の差でしかなく,箱体の全体的な構成態様を変更するものではないから,類否判断に与える影響は微弱である。なお,被請求人は,差異点(A)及び(B)によって,両意匠は緩衝能力に相違がある旨主張するが,両意匠とも薄板素材により構成された箱体であって,差異点(A)及び(B)のみから緩衝能力に大きな相違が生じるものとは断定できないし,緩衝能力という機能的効果はともかく,視覚を通じて判断される意匠的効果においては上記のように大きな差異とは認められない。そして,これら差異点を総合して勘案しても,両意匠の全体として共通する美感を変更するまでのものではない。
 以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,共通点が差異点を凌駕し,意匠全体として美感が共通するものであるから,両意匠は類似する。
5.むすび
 したがって,本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し,本件意匠登録は,同法第3条の規定に違反してなされたものであるから,同法第48条1項の規定により,無効にすべきものである。
 よって,結論のとおり審決する。
【審理終結日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【結審通知日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【審決日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【審判長】 【特許庁審判官】梅澤 修
【特許庁審判官】樋田 敏恵
【特許庁審判官】並木 文子












(21)【出願番号】意願2000-1053(D2000-1053)
(22)【出願日】平成12年1月27日(2000.1.27)
(54)【意匠に係る物品】包装用箱
(52)【意匠分類】F4-530B
(11)【登録番号】意匠登録第1090175号(D1090175)
(15)(24)【登録日】平成12年9月1日(2000.9.1)
【最終処分】成立
【前審関与審査官】杉山 太一

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