2008年12月6日土曜日

不服2006-6933

【管理番号】第1183013号
【総通号数】第106号
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許審決公報
【発行日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2006-6933(P2006-6933/J1)
【審判請求日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【確定日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【審決分類】
P18  .121-Z  (H04L)
【請求人】
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
【住所又は居所】東京都新宿区西新宿2丁目4番1号
【代理人】
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
【事件の表示】
 特願2000-218587「ログイン装置、及び記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月16日出願公開、特開2001- 69155〕について、次のとおり審決する。
【結 論】
 本件審判の請求は、成り立たない。
【理 由】
1.手続の経緯 ・本願発明
 本願は、平成11年8月3日に出願した特願平11-219858号の一部を平成12年7月19日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、平成18年5月12日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「或る特定装置に所定の通信路を介してログインし得るログイン装置であって、
 前記特定装置に対してログイン要求を出した後に、前記特定装置から、ログイン不成立の応答を受けると共に、再要求タイミングの指示を受けた場合に、指示された該再要求タイミングで前記特定装置に対して再度ログイン要求を出すログイン要求手段
 を備えることを特徴とするログイン装置。 」
 
 
2.引用発明及び周知技術
(1)原査定の拒絶の理由で引用された、特開平10-198622号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
 
ア.「【0002】
【従来の技術】従来の通信回線に接続された端末装置(端末)とサーバー装置では、一般的に物理的に設置された端末の数よりもサーバー装置と一度に通信接続される端末の数は少なく限られて設定されている。例えば、一つのサーバー装置に通信接続可能な端末が100台であったとしても、同時にそのサーバー装置とログインできるのは40台に限定されるようになっている。これは、一般的には端末の平均したサーバー装置とのログイン時間や1ヶ月の総ログイン時間等から同時に使用される端末の数量を仮定して、その数量に有る程度の余裕を持たせて通信回線の容量やサーバー装置側の計算容量あるいはログイン容量を決定しているためである。また、100台の端末に対してそれらの100台の端末がログイン可能にサーバー装置側を対応させようとすると、その為のサーバー装置側の設備投資金額や維持費用は40台端末をログイン可能にする場合に比べて遥かに高額になり、時間当たりの各端末の使用率は低下するのでコストパーフォーマンスの悪いシステムになってしまうので、一般的には実際に通信回線に接続されている端末数よりもサーバー装置に同時にログイン可能な端末数は低く設定される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記のようにサーバー装置側の能力は平均値や集計したデータを基に決定されているが、実際に端末を使用してサーバー装置にログインする場合には、各端末の使用頻度は各ユーザーの都合により個別で独自に変わり、各端末の使用頻度は管理されているわけではないので、往々にして端末の使用が集中する時間帯が発生する。例えば、朝の出社直後の自分宛の電子メールの確認、決算日や締め日等の入力の集中、問題発生時のデータ出力等の場合には、端末側のサーバー装置とのログイン希望が、サーバー装置の能力を超えてログイン要求が集中することがあり得る。このような場合には、後からサーバー装置にログインしようと試みた端末の利用者は緊急にサーバー装置にログインしたい場合であってもサーバー装置からログインを拒否されてしまい、ログイン可能になるのを待つしか方法はなかった。」(第3頁左欄第8~46行)
 
 上記ア.において、端末側のサーバー装置とのログイン希望がサーバー装置の能力を超えてログイン要求が集中した場合には、「後からサーバー装置にログインしようと試みた端末の利用者は緊急にサーバー装置にログインしたい場合であってもサーバー装置からログインを拒否されてしまい、ログイン可能になるのを待つしか方法はなかった。」とあり、そのような場合には、当然、ログイン可能になるのを待って、再度ログイン要求を出すことになるものと解される。
 よって、上記ア.を参照すると、引用例には、従来技術として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
 
「サーバー装置に通信回線を介してログインし得る端末装置であって、
 前記サーバー装置に対してログイン要求を出した後に、前記サーバー装置からログインを拒否された場合に、前記サーバー装置に対して再度ログイン要求を出すログイン要求手段
 を備える端末装置。」
 
(2)原査定の拒絶の理由で周知例として引用された特開平4-111561号公報(以下、「周知例1」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
 
イ.「〔課題を解決するための手段〕
 第1図は本発明の通信方式の説明図である。図において1は処理開始の要求を発する側の第1装置であり、2はこの要求を受信する側の第2装置である。この発明では第2装置2が処理開始を否定するときに「時間T後再送」せよという内容の情報を第1装置へ送ることとしている。
 〔作用〕
 ・・・(中 略)・・・
 これに対して輻輳中などであって処理開始を否定するときは第2装置2は第1装置1へ処理開始否定応答をするが、その応答データの内容は、従来同様の処理開始否定であることを示すデータ及び否定原因を示すデータの外に、本発明方式では第1装置1が次に処理開始要求を発すべきタイミングに関するデータが含まれている。このタイミングは例えば処理開始否定の応答受信後の待ち時間Tとして表わされている。この時間Tは、第2装置2がその時間経過後には第2装置2は処理開始可能な状態になっている時間として、否定原因に応じて予め定めたもの、又は所定の方法で算出した時間である。
 この時間Tが経過すると、第1装置1は処理開始要求を再送する。これを受けた第2装置2では処理開始可能状態、つまり通常運転状態になっているので処理開始応答をする。その後は処理実施に伴う信号の送受が行なわれ、処理終了要求、処理終了応答(共に図示せず)を行う。このように本発明方式では処理開始否定応答及びこれに対する処理開始要求の再送は各1回だけで済む。」
(第2頁左下欄第10行~第3頁左上欄第4行)
 
ウ.「パケット多重化装置11が起動されるとROM中のプログラムに従ってパケット交換機12に対してダウンロードの要求が発せられる。パケット交換機12がダウンロードの要求に応られる場合は破線で示すようにダウンロード応答をパケット多重化装置11へ発するが、前述のようにパケット交換12には複数のパケット多重化装置21,31…が接続されているのでこれらからの種々の要求により同時処理可能な程度を超えてオーバ状態となっているときはダウンロード不可の応答を発する。このときのパケット多重化装置11への応答データはダウンロード不可を示すデータ、その原因(輻輳)の外に、再送の要否を示すデータ(輻輳の場合は再送要)及び再送までの時間T,例えば10秒を示すデータである。」
(第3頁左上欄第18行~同頁右上欄第13行)
 
エ.「而して以上の如き否定応答を受け取ると、パケット多重化装置11では時間Tを適宜タイマに設定する等してその計時を行い、時間T経過後にダウンロード要求を再送する。
 時間Tは詳細な否定原因に対応づけて定められているので、この処理要求の再送をパケット交換機12が受けたタイミングでは、この要求に応え得る状態になっている。従ってダウンロード応答を発し引き続いてパケット多重化装置11のRAM(図示せず)に書き込むべきプログラムの転送を行う。これを受けたパケット多重化装置11はRAM内にこれを書込み、以後その内容に従って動作する。」
(第3頁右下欄第1~12行)
 
オ.「〔発明の効果〕
 以上の如き本発明方式による場合は、処理要求の再送は1回しか必要としないから3回以上に及ぶ処理要求の送信、これに対する否定応答の送信という通信の無駄が排され、両装置の負荷が軽減される。また無駄な通信に因る輻輳の助長が防止されることになる。」
(第4頁左上欄第3~9行)
 
 原査定の拒絶の理由で同じく周知例として引用された特開平5-122383号公報(以下、「周知例2」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
 
カ.「さらに、それぞれの場合に、交換機1aからの「問合せ」である送信情報の方が、交換機1bからの問合せに対する「応答」である送信情報よりも高い優先度であるとしている。」
(第4頁右欄第8~12行)
 
キ.「【0037】本実施例における送信情報の受信の可否判定論理を図4に示す。図4においては、受信拒否時に交換機1aが送信情報を再送するときの再送タイミング値(交換機1bにより交換機状態識別メモリ6bに登録されている。)を記載している。
【0038】本実施例においては、交換機1bが正常状態でないときに、ゲート回路12bは、デコーダ14bによりデコードされた優先度と、デコーダ15bによりデコードされた交換機1bの状態とにより、図4に示した論理に従って、交換機1aからの送信情報の受信の可否を判定する。
【0039】ゲート回路12bが受信不可であると判定した場合は、ゲート回路13bが動作し、これにより、交換機状態識別メモリ6bに登録されている交換機1bの状態(「輻輳中」の場合は、その程度も含む。)および再送タイミング値が、送信メモリ7b,送信バッファレジスタ8bを介して、送信側の交換機1aへ送られる。
【0040】これにより、交換機1aは、交換機1bへの通信が拒否されたことと、その理由を知ることができ、さらに、再送可能の場合には、その再送タイミング値を知ることができるので再送タイミング値分のタイミングを取った後に再送すればよく、通信拒否時の再送処理が容易となる。」
(第5頁左欄第46行~同頁右欄第19行)
 
 周知例1における上記イ.~オ.の記載からは、第1図に記載される第1装置1は第2装置2を特定して処理開始要求を出すと、当該第2装置2から処理開始否定応答とともに次の処理開始要求を発すべきタイミングTの指示を受ける場合があることを読みとることができる。また、この場合には、第1装置は指示された次の処理開始要求タイミングTで第2装置2に対して再度処理開始要求を出すことを読みとることができる。
 ここで、「処理開始要求」は要求の一態様であるから、「処理開始否定応答」は要求不成立の応答と、「次の処理開始要求タイミングTの指示」は再要求タイミングの指示とそれぞれ解することができる。
 
 周知例2における上記カ.及びキ.の記載からは、第1図に記載される交換機1aは交換機1bへ問い合わせとしての送信情報を出すと、例えば輻輳中であることをを意味する「受信側交換機状態」の通知をもって交換機1bから受信不可の応答を受けるとともに、再送タイミングの指示を受ける場合があることを読みとることができる。また、この場合には、交換機1aは指示された再送タイミングで交換機1bに対して再度問い合わせとしての送信情報を出すことを読みとることができる。
 ここで、周知例2において「問い合わせとしての送信情報を出す」ことは、送信の必要があり、送信が求められていることを前提として行われている動作であるから、要求の一態様ということができる。このことから、「受信不可の応答」は要求不成立の応答と、「再送タイミングの指示」は再要求タイミングの指示とそれぞれ解することができる。
 
 以上の周知例1及び周知例2の記載からして、
 
「特定装置に対して要求を出した後に、前記特定装置から、要求不成立の応答を受けると共に、再要求タイミングの指示を受けた場合に、指示された該再要求タイミングで前記特定装置に対して再度要求を出すこと」
 
 は周知技術と認められる。
 
 
3.対比
 本願発明と引用発明とを対比する。引用発明の「サーバー装置」は、引用発明の「端末装置」がログイン要求を発する際に、そのログイン要求先として特定される立場にあることは明らかであるから、本願発明の「或る特定装置」に相当する。また、引用発明の「通信回線」は、本願発明の「所定の通信路」に相当する。引用発明の「ログインし得る端末装置であって」は、本願発明の「ログインし得るログイン装置であって」に相当する。
 上記の対応関係からして、引用発明の「サーバー装置に対してログイン要求を出した後に」は、本願発明の「特定装置に対してログイン要求を出した後に」に相当する。
 そして、引用発明において「サーバー装置からログインを拒否され」ることは、本願発明において「特定装置から、ログイン不成立の応答を受ける」ことに対応する事項であるから、引用発明の「ログイン要求手段」も本願発明の「ログイン要求手段」も、「特定装置から、ログイン不成立の応答を受ける」点で共通した機能を有しているといえる。
 同様に、引用発明において「サーバー装置に対して再度ログイン要求を出す」ことは、本願発明において「特定装置に対して再度ログイン要求を出す」ことに対応するから、引用発明の「ログイン要求手段」も本願発明の「ログイン要求手段」も、「特定装置に対して再度ログイン要求を出す」点で共通した機能を有しているといえる。
 
 よって、本願発明と引用発明とは、
 
 (一致点)
「或る特定装置に所定の通信路を介してログインし得るログイン装置であって、
 前記特定装置に対してログイン要求を出した後に、前記特定装置から、ログイン不成立の応答を受けた場合に、前記特定装置に対して再度ログイン要求を出すログイン要求手段
 を備えるログイン装置。」
 
 である点で一致し、次の点で相違する。
 
 (相違点)
「ログイン要求手段」が、本願発明においては、「特定装置から、ログイン不成立の応答を受けると共に、再要求タイミングの指示を受けた場合に、指示された該再要求タイミングで前記特定装置に対して再度ログイン要求を出す」のに対し、引用発明においては、「サーバー装置からログイン拒否された場合に、前記サーバー装置に対して再度ログイン要求を出す」ものの、再度のログイン要求を「再要求タイミングの指示を受けた場合に、指示された該再要求タイミングで」行うとはされていない点。
 
 
4.当審の判断
 上記相違点について検討する。
 「特定装置に対して要求を出した後に、前記特定装置から、要求不成立の応答を受けると共に、再要求タイミングの指示を受けた場合に、指示された該再要求タイミングで前記特定装置に対して再度要求を出すこと」は、[2.引用発明及び周知技術の(2)]において示したとおり周知技術である。そして、当該周知技術を引用発明のログイン要求手段によるログイン要求(要求)後のログインの拒否(要求不成立)に対する再度ログイン要求(再度要求)の例に適用することに格別の困難性はない。したがって、引用発明のログイン要求手段に対して前記周知技術を適用して「特定装置から、ログイン不成立の応答を受けると共に、再要求タイミングの指示を受けた場合に、指示された該再要求タイミングで前記特定装置に対して再度ログイン要求を出す」ログイン要求手段を備えるようにすることは当業者が容易になし得たものである。
 
 
5.むすび
 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 よって、結論のとおり審決する。
【審理終結日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【結審通知日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【審決日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【審判長】 【特許庁審判官】石井 研一
【特許庁審判官】柳下 勝幸
【特許庁審判官】山本 春樹

(21)【出願番号】特願2000-218587(P2000-218587)
(22)【出願日】平成11年8月3日(1999.8.3)
(54)【発明の名称】ログイン装置、及び記録媒体
(65)【公開番号】特開2001-69155(P2001-69155)
(43)【公開日】平成13年3月16日(2001.3.16)
【最終処分】不成立
【審決時の請求項数(発明の数)】5
【前審関与審査官】中木 努、土居 仁士


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