2008年12月6日土曜日

不服2006-13530

【管理番号】第1183052号
【総通号数】第106号
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許審決公報
【発行日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2006-13530(P2006-13530/J1)
【審判請求日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【確定日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【審決分類】
P18  .121-Z  (G02F)
P18  .575-Z  (G02F)
【請求人】
【氏名又は名称】ティーピーオー ホンコン ホールディング リミテッド
【住所又は居所】香港,シャティン,サイエンス パーク イースト アベニュー,フィリップス エレクトロニクス ビルディング 5,フロア 2
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
【事件の表示】
 平成 9年特許願第 38192号「液晶表示素子」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月14日出願公開、特開平 9-269497〕について、次のとおり審決する。
【結 論】
 本件審判の請求は、成り立たない。
【理 由】
 
1.手続の経緯
 本願は、平成8年5月28日(優先権主張平成8年1月31日)に出願した特願平8-133207号の特許出願の一部を平成9年2月21日に新たな特許出願としたものであって、平成18年3月24日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年7月28日に手続補正がなされたものである。
 
2.平成18年7月28日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
  平成18年7月28日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
 本件補正は、請求項1を下記のように補正しようとするものである。
「【請求項1】 ガラス基板の内面にトップゲート型TFT(薄膜トランジスタ)、画素電極、共通電極の形成されたTFTアレイ基板と、対向基板とが液晶層を挟んで近接対向され、それら基板とほぼ平行な電界により液晶分子を動かして光の透過を制御するIPS(イン・プレイン・スイッチング)モード・トップゲート型・TFTマトリクス型の液晶表示素子において、前記画素電極と前記共通電極とが同一工程で同一マスクを用いて形成されるように、前記TFTのソース電極及びドレイン電極と、それらソース電極及びドレイン電極にそれぞれ接続されたソースバス及び前記画素電極と、前記共通電極とが、前記ガラス基板の内面に同じ層として形成され、前記ソース電極とドレイン電極の間及びその近傍に半導体層が形成され、前記各種の電極、バス及び半導体層の形成された前記ガラス基板の内面に、ゲート絶縁膜が、各画素の表示領域を除いて形成され、そのゲート絶縁膜上に、ゲートバスが前記半導体層と重なるように形成されていることを特徴とする液晶表示素子。」
 
 上記補正は、補正前の請求項1の「前記画素電極と、前記共通電極とが、前記ガラス基板の内面に同じ層として形成され」る点をさらに具体的に限定しようとするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。
 
(2)刊行物記載の発明
 原査定の拒絶理由に引用した刊行物1:特開平6-202127号公報には、アクティブマトリクス型液晶表示装置に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
「【0021】
【実施例】本発明を実施例により具体的に説明する。
【0022】
〔実施例1〕
 基板としては厚みが1.1mmで表面を研磨したガラス基板を2枚用いる。これらの基板間に誘電率異方性Δεが正でその値が4.5であり、複屈折Δnが0.072(589nm,20℃)のネマチック液晶組成物を挟む。・・・
【0023】
 画素の構成を図1に示す。走査配線1(ゲート電極と共通)と信号配線2(ドレイン電極と共通)は直交し、画素電極3(ソース電極と共通)と共通電極4は平行で、画素電極3と共通電極4間で電界がかかり、かつその方向が基板界面にほぼ平行となるようにした。薄膜トランジスタの活性層にはアモルファスシリコン4,ゲート絶縁膜には窒化シリコンを用いたが特に限定はない。また電極および配線はいずれもクロムからなるが、電気抵抗の低い金属性のものであれば特に材料の制約はなく、アルミニウム,タンタル,タングステン等でもよい。・・・図2に図1のA線における断面図を示す。薄膜トランジスタはドレイン電極2,ソース電極3が最下層にあり、アモルファスシリコン4,窒化シリコン7,ゲート電極の順に積み上げられた正スタガ構造を有している。薄膜トランジスタ上には透明樹脂からなる保護膜8を形成し、液晶を配向されるために保護膜8をラビングした。また薄膜トランジスタを有する基板に相対向する基板上にストライプ状のR,G,B3色のカラーフィルタ12を備えた。・・・
 
【0038】
〔実施例5〕本実施例の構成は下記の要件を除けば、実施例1と同一である。
【0039】
 本実施例では、薄膜トランジスタを2マスクで作成した。第1に、図12(a)に示すように、ガラス基板上に、クロムをスパッタリングで成膜し、その上にn+型のアモルファスシリコンをプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)で成膜した後、第1のマスクを用いて、ホトレジスト加工技術で、信号配線2(ドレイン電極),画素電極3(ソース電極)および共通電極5のパターンを形成し、第2に、図12(b)に示すように、i型のアモルファスシリコンおよび窒化シリコンをプラズマCVDで連続成膜し、その上に、クロムをスパッタリングで成膜した後、第2のマスクを用いて、ホトレジスト加工技術で、走査配線8(ゲート電極)、i型のアモルファスシリコン4および窒化シリコン7のパターンを形成し、走査配線1,信号配線2,共通電極5および薄膜トランジスタを形成する。
【0040】
 正スタガ構造の薄膜トランジスタ構成を用い、本実施例の製造方法を用いることによって、2マスクで、走査配線1,信号配線2,共通電極5および薄膜トランジスタのパターニングを行なうことができ、製造工程の大幅な短縮を行なうことができた。」
 
 また、図1~3の記載から、
「正スタガ構造の薄膜トランジスタ、画素電極3、共通電極5が形成されたTFTアレイ基板と、カラーフィルタ12などが形成された対向基板とが液晶層9を挟んで近接対向され、それら基板とほぼ平行な電界Eにより液晶分子13を動かして光の透過を制御する液晶表示装置において、TFTアレイ基板の内面上に信号配線2(ドレイン電極),画素電極3(ソース電極)及び共通電極5が同じ層として形成され、前記薄膜トランジスタの前記ソース電極3とドレイン電極2の間及びその近傍に半導体活性層4が形成され、前記各種の電極、配線及びパターニングされた半導体活性層が形成された前記TFTアレイ基板上にゲート絶縁膜7が形成され、そのゲート絶縁膜上に、走査配線1が前記半導体活性層4と重なるように形成された液晶表示装置」が見てとれる。
  上記によれば刊行物1には、下記の発明が記載されている。
「正スタガ構造の薄膜トランジスタ、画素電極、共通電極が形成されたTFTアレイガラス基板と、カラーフィルタなどが形成された対向基板とが液晶層を挟んで近接対向され、それら基板とほぼ平行な電界により液晶分子を動かして光の透過を制御するアクティブマトリクス型液晶表示装置において、前記ガラス基板の内面上にCr等を成膜した後、第1のマスクを用いて、信号配線(ドレイン電極),画素電極(ソース電極)及び共通電極のパターンが同じ層として形成され、前記薄膜トランジスタのソース電極とドレイン電極の間及びその近傍に半導体活性層が形成され、前記各種の電極、配線及びパターニングされた半導体活性層が形成された前記ガラス基板上にゲート絶縁膜が形成され、そのゲート絶縁膜上に、走査配線が前記半導体活性層と重なるように形成された液晶表示装置。」
 
(3)対比
 本願補正発明と刊行物1記載の発明(以下、「引用発明」という。)とを対比する。
 (ア)引用発明の「正スタガ構造の薄膜トランジスタ」は、本願補正発明の「トップゲート型TFT(薄膜トランジスタ)」に相当する。
 
 (イ)引用発明においては、「基板とほぼ平行な電界により液晶分子を動かして光の透過を制御する」のであるから、本願補正発明と同じく、IPS(イン・プレイン・スイッチング)モードの液晶表示を行っていることは明らかである。
 
 (ウ)引用発明の「液晶表示装置」、「半導体活性層」、「画素電極」、「ソース電極」、「ドレイン電極」、「信号配線」及び「走査配線」は、それぞれ、本願補正発明の「液晶表示素子」、「半導体層」、「画素電極」、「ドレイン電極」、「ソース電極」、「ソースバス」及び「ゲートバス」に相当する。また、引用発明の「信号配線(ドレイン電極)」及び「画素電極(ソース電極)」は、ドレイン電極が信号配線に、ソース電極が画素電極に、それぞれ接続されていることを意味することは明らかである。
 
 (エ)引用発明は、「ガラス基板の内面上にCr等を成膜した後、第1のマスクを用いて、信号配線(ドレイン電極),画素電極(ソース電極)及び共通電極のパターンが同じ層として形成され」ているのであるから、引用発明には、本願補正発明の「前記画素電極と前記共通電極とが同一工程で同一マスクを用いて形成されるように、前記TFTのソース電極及びドレイン電極と、それらソース電極及びドレイン電極にそれぞれ接続されたソースバス及び前記画素電極と、前記共通電極とが、前記ガラス基板の内面に同じ層として形成され」た点が備わっている。
  
 よって、両者は、
「ガラス基板の内面にトップゲート型TFT(薄膜トランジスタ)、画素電極、共通電極の形成されたTFTアレイ基板と、対向基板とが液晶層を挟んで近接対向され、それら基板とほぼ平行な電界により液晶分子を動かして光の透過を制御するIPS(イン・プレイン・スイッチング)モード・トップゲート型・TFTマトリクス型の液晶表示素子において、前記画素電極と前記共通電極とが同一工程で同一マスクを用いて形成されるように、前記TFTのソース電極及びドレイン電極と、それらソース電極及びドレイン電極にそれぞれ接続されたソースバス及び前記画素電極と、前記共通電極とが、前記ガラス基板の内面に同じ層として形成され、前記ソース電極とドレイン電極の間及びその近傍に半導体層が形成され、前記各種の電極、バス及び半導体層の形成された前記ガラス基板の内面に、ゲート絶縁膜が形成され、そのゲート絶縁膜上に、ゲートバスが前記半導体層と重なるように形成されていることを特徴とする液晶表示素子。」
 で一致し、下記の点で相違する。
 
(相違点)
 ゲート絶縁膜が、本願補正発明では、各画素の表示領域を除いて形成されているのに対して、引用発明では、このような構成を有しない点。
 
(4)判断
 上記相違点について検討する。
 TFTを用いるアクティブマトリクス基板において、各画素の表示領域にゲート絶縁膜を設けないようにすることは、本願優先日前に周知であるから(例.特開平7-110495号公報(【0018】~【0029】、図1及び図2の記載、特に【0028】の「絶縁膜GIは、・・・パターニングされる。」参照。)、特開平7-64113号公報(【0011】、図1及び図2の記載、特に「SiX、・・・を同一のマスクでパターニングすることにより、・・・ゲート絶縁膜(14)・・・が形成される。」参照。)及び特開平6-250210号公報(【0038】~【0042】及び図20~図27、特に【0038】の「ゲートSiN膜21・・・を堆積する。」及び【0042】の「a-Si膜およびSiN膜をパターニングする。」参照。))、引用発明のゲート絶縁膜の形成を、この周知技術のように各画素の表示領域を除いて形成するようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
 
 そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び上記周知技術から予測し得る程度のものである。
 
 したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
 
(5)むすび
 以上のとおり、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
 
3.本願発明について
 
(1)本願発明
 平成18年7月28日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】ガラス基板の内面にトップゲート型TFT(薄膜トランジスタ)、画素電極、共通電極の形成されたTFTアレイ基板と、対向基板とが液晶層を挟んで近接対向され、それら基板とほぼ平行な電界により液晶分子を動かして光の透過を制御するIPS(イン・プレイン・スイッチング)モード・トップゲート型・TFTマトリクス型の液晶表示素子において、前記TFTのソース電極及びドレイン電極と、それらソース電極及びドレイン電極にそれぞれ接続されたソースバス及び前記画素電極と、前記共通電極とが、前記ガラス基板の内面に同じ層として形成され、前記ソース電極とドレイン電極の間及びその近傍に半導体層が形成され、前記各種の電極、バス及び半導体層の形成された前記ガラス基板の内面に、ゲート絶縁膜が、各画素の表示領域を除いて形成され、
そのゲート絶縁膜上に、ゲートバスが前記半導体層と重なるように形成されていることを特徴とする液晶表示素子。」(以下、「本願発明」という。)
 
(2)刊行物記載の事項
 原査定の拒絶理由に引用された引用例、および、その記載事項は、上記2.(2)に記載したとおりである。
 
(3)対比・判断
 本願発明は、上記2.で検討した本願補正発明から「前記画素電極と、前記共通電極とが、前記ガラス基板の内面に同じ層として形成され」る点の限定事項である「前記画素電極と前記共通電極とが同一工程で同一マスクを用いて形成されるように」形成したとの発明特定事項を省いたものである。
 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.(4)に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。
 
(4)むすび
 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
 よって、結論のとおり審決する
【審理終結日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【結審通知日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【審決日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【審判長】 【特許庁審判官】小牧 修
【特許庁審判官】山村 浩
【特許庁審判官】吉野 公夫

(21)【出願番号】特願平9-38192
(22)【出願日】平成8年5月28日(1996.5.28)
(54)【発明の名称】液晶表示素子
(65)【公開番号】特開平9-269497
(43)【公開日】平成9年10月14日(1997.10.14)
【最終処分】不成立
【審決時の請求項数(発明の数)】1
【前審関与審査官】柏崎 康司、磯野 光司、右田 昌士


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