2008年12月6日土曜日

不服2006-3042

【管理番号】第1183050号
【総通号数】第106号
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許審決公報
【発行日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2006-3042(P2006-3042/J1)
【審判請求日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【確定日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【審決分類】
P18  .121-Z  (A61M)
P18  .575-Z  (A61M)
【請求人】
【氏名又は名称】パリヨン・メディカル(ビー・ヴイ・アイ)・リミテッド
【住所又は居所】英国領ヴァージン諸島、トートラ、ロード・タウン、ピー・オー・ボックス 71、エイチ・ダブリュー・アール・サーヴィシズ・リミテッド気付
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】八田 幹雄
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 泰男
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】宇谷 勝幸
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 健
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】都祭 正則
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 俊弘
【事件の表示】
 平成8年特許願第61421号「埋込型インフュージョンポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成8年10月15日出願公開、特開平8-266620号〕について、次のとおり審決する。
【結 論】
 本件審判の請求は、成り立たない。
【理 由】
第1.手続の経緯
 本願は、平成8年3月18日(パリ条約による優先権主張1995年3月17日、ドイツ)の出願であって、平成17年11月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年2月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年3月17日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。
 
第2.平成18年3月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
 平成18年3月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。
 
[理由]
1.補正後の本願発明
 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
 「ポンプ室の下部部材(2)とそれに結合したポンプ室の上部部材(3)から構成されるポンプ室を備え、ここで
a)前記ポンプ室は、ガス不透過性、可撓性の仕切り(6)により2つの副室に分けられ、
b)第1副室は、前記ポンプ室の上部部材(3)と前記可撓性仕切り(6)とで定められ、薬液用貯蔵室(7)として設計され、また前記ポンプ室の上部部材(3)は少なくとも1つの穿刺性隔膜(13)でシールされた再充填用開口部(12)を備え、さらに薬液用貯蔵室(7)は出口開口部および出口整復配列を介して出口カテーテルと結合し、
c)第2副室は、前記ポンプ室の下部部材(2)と前記可撓性仕切り(6)により定まり、圧力室(8)として設計されて推進体を収容でき、
 人体に薬剤を所定量投与する埋込型インフュージョンポンプにおいて、
 前記ポンプはプラスチック製であり、 
 前記推進体はヘキサフルオロブタンであることを特徴とするインフュージョンポンプ。」(下線部は、補正箇所を示す。)
 
2.補正の目的の適否
 本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「埋込型インフュージョンポンプ」に、「プラスチック製であり」との限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
 
3.独立特許要件
 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
 
3-1.引用例の記載事項
 原査定の拒絶の理由に引用された、特開平2-46867号公報(以下、「引用例」という)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア.「物質の適量投薬用のこのような挿入装置は通常、インシュリンやその他直接体内に長期間投入する薬剤に用いられ、その装置は注射筒を用いて、隔膜によって封止された補給用開口部を介して充填される。」(第3ページ左上欄第3~7行)
イ.「装置は2つの部分1,2で構成された外被から成り、その内部は軟質隔膜3で2室4,5とに分割される。前記室4は投薬される薬剤を収容するのに対し室5には体温で等圧式に膨脹する推進剤が入っている。前記推進剤の膨脹により、前記隔膜3が影響を受けて薬剤を前記室4から転置する形で出口開口部6、出口減圧機構7および出口カテーテル8を通って患者の体内に投薬される。前記薬剤は前記外被の部分1に環状に配設される室9に挿入されてから前記出口カテーテル8に届く。前記室9はその上部でリング10により封止され、それを注射針で突き刺すことができまた注射針を引き抜いた後、自動的に再び隔膜により封止する。前記リング10は環状固定機構11によりその場所に固定される。前記室4は固定部材13で固定されたもう一つの隔膜12を通して補給できる。」(第3ページ右上欄第6行~左下欄第1行)
ウ.第1図には、室4が外被の部分1と軟質隔膜3とで構成され、室5が外被の部分2と軟質隔膜3とで構成されていることが図示されている。
 
 上記イの記載及び第1図から、外被の部分1は、隔膜12でシールされた補給開口部を備えているものと認められる。
 
 これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。
 
 「外被の部分2と外被の部分1から構成される外被を備え、
外被の内部は、軟質隔膜3で2室4,5とに分割され、
室4は外被の部分1と軟質隔膜3とで構成され、投薬される薬剤を収納し、外被の部分1は隔膜12でシールされた補給開口部を備え、薬剤が室4から出口開口部6、出口減圧機構7および出口カテーテル8を通り、
室5は、外被の部分2と軟質隔膜3とで構成され、体温で等圧式に膨脹する推進剤が入っている、
 適量投薬用の挿入装置。」
 
3-2.対比
 本願補正発明と引用発明とを対比すると、その構造または機能からみて、引用発明の「外被の部分2」は、本願補正発明の「ポンプ室の下部部材(2)」に相当し、以下同様に、「外被の部分1」は「ポンプ室の上部部材(3)」に、「外被の内部」は「ポンプ室」に、「2室4,5」は「2つの副室」に、「室4」は「第1副室」に、「隔膜12」は「穿刺性隔膜(13)」に、「補給開口部」は「再充填用開口部(12)」に、「出口開口部6」は「出口開口部」に、「出口減圧機構7」は「出口整復配列」に、「出口カテーテル8」は「出口カテーテル」に、「室5」は「第2副室」に、「推進剤」は「推進体」に、それぞれ相当する。
 引用発明の「軟質隔膜3」は、推進剤の膨張の際、推進剤を通過させないのは明らかであるから、本願補正発明の「ガス不透過性、可撓性の仕切り(6)」に相当する。
 引用発明の「外被の部分2と外被の部分1から構成される外被」と本願補正発明の「ポンプ室の下部部材(2)とそれに結合したポンプ室の上部部材(3)から構成されるポンプ室」とは同義であり、引用発明の「軟質隔膜3で2室4,5とに分割され」と本願補正発明の「ガス不透過性、可撓性の仕切り(6)により2つの副室に分けられ」とは同義であり、引用発明の「外被の部分1と軟質隔膜3とで構成され」と本願補正発明の「前記ポンプ室の上部部材(3)と前記可撓性仕切り(6)とで定められ」とは同義であり、引用発明の「室4は」「投薬される薬剤を収納し」と本願補正発明の「第1副室は」「薬液用貯蔵室(7)として設計され」と同義であり、引用発明の「薬液が室4から出口開口部6、出口減圧機構7および出口カテーテル8を通り」と本願補正発明の「薬液用貯蔵室(7)は出口開口部および出口整復配列を介して出口カテーテルと結合し」とは同義であり、引用発明の「外被の部分2と軟質隔膜3とで構成され」と本願補正発明の「前記ポンプ室の下部部材(2)と前記可撓性仕切り(6)により定まり」とは同義であり、引用発明の「室5は」「体温で等圧式に膨脹する推進剤が入っている」と本願補正発明の「第2副室は」「圧力室(8)として設計されて推進体を収容でき」とは同義であり、引用発明の「適量投薬用の」と本願補正発明の「人体に薬剤を所定量投与する」とは同義である。
 また、引用発明の「挿入装置」と本願補正発明の「埋込型インフュージョンポンプ」とは、インフュージョンポンプという点で共通している。
 
 そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
 「ポンプ室の下部部材(2)とそれに結合したポンプ室の上部部材(3)から構成されるポンプ室を備え、
前記ポンプ室は、ガス不透過性、可撓性の仕切り(6)により2つの副室に分けられ、
第1副室は、前記ポンプ室の上部部材(3)と前記可撓性仕切り(6)とで定められ、薬液用貯蔵室(7)として設計され、また前記ポンプ室の上部部材(3)は少なくとも1つの穿刺性隔膜(13)でシールされた再充填用開口部(12)を備え、薬液用貯蔵室(7)は出口開口部および出口整復配列を介して出口カテーテルと結合し、
第2副室は、前記ポンプ室の下部部材(2)と前記可撓性仕切り(6)により定まり、圧力室(8)として設計されて推進体を収容でき、
 人体に薬剤を所定量投与するインフュージョンポンプ。」
 
 そして、両者は次の相違点1~3で相違する。
(相違点1)
 インフュージョンポンプについて、本願補正発明は、埋込型であるのに対し、引用発明は、埋込型であるか不明である点。
 
(相違点2)
 インフュージョンポンプについて、本願補正発明は、プラスチック製であるのに対し、引用発明は、プラスチック製であるか不明である点。
 
(相違点3)
 推進体について、本願補正発明は、ヘキサフルオロブタンであるのに対し、引用発明は、何であるか不明である点。
 
3-3.相違点の判断
 上記相違点について検討する。
(相違点1について)
 引用発明と同様の構成である薬剤の挿入装置(インフュージョンポンプ)を埋込型とすることは、例えば、特表平5-505753号公報、特開昭51-117489号公報に示されるように、本願の優先日前の周知技術にすぎないから、引用発明において、前記周知技術を適用し、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
 
(相違点2について)
 体内に埋め込んで薬剤を投与する装置をプラスチック製とすることは、例えば、特開昭61-87565号公報(第3ページ等参照)、特開平6-86829号公報に示されるように、本願の優先日前の周知技術にすぎないから、引用発明において、前記周知技術を適用し、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
 
(相違点3について)
 医療用のスプレーのための噴射剤として、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタンは、例えば、特開平1-146831号公報(第4ページ左下欄下から第11~3行等参照)、特開平7-2282号公報(段落【0001】、【0013】等参照)に示されるように、本願の優先日前の周知技術である。また、インフュージョンポンプにおいて、推進剤(推進体)をクロロフルオロ炭化水素等とすることは、例えば、特表平5-505753号公報、特開昭51-117489号公報に示されるように、本願の優先日前の周知技術であると共に、冷媒、発泡剤、洗浄剤等として用いられ、オゾン層を破壊するおそれのあるクロロフルオロ炭化水素等に対して、オゾン層を破壊するおそれの少ない1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタンが代替可能であることも、例えば、国際公開第94/12454号、特開平6-256236号公報に示されるように、本願の優先日前の周知技術にすぎない。
 そうすると、引用発明において、これら周知技術を考慮して、推進剤(推進体)として1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタンを採用し、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
 
 そして、本願補正発明による効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。
 
 したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
 
3-4.むすび
 したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
 
第3.本願発明
 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、拒絶査定時の明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
 「ポンプ室の下部部材(2)とそれに結合したポンプ室の上部部材(3)から構成されるポンプ室を備え、ここで
a)前記ポンプ室は、ガス不透過性、可撓性の仕切り(6)により2つの副室に分けられ、
b)第1副室は、前記ポンプ室の上部部材(3)と前記可撓性仕切り(6)とで定められ、薬液用貯蔵室(7)として設計され、また前記ポンプ室の上部部材(3)は少なくとも1つの穿刺性隔膜(13)でシールされた再充填用開口部(12)を備え、さらに薬液用貯蔵室(7)は出口開口部および出口整復配列を介して出口カテーテルと結合し、
c)第2副室は、前記ポンプ室の下部部材(2)と前記可撓性仕切り(6)により定まり、圧力室(8)として設計されて推進体を収容でき、
 人体に薬剤を所定量投与する埋込型インフュージョンポンプにおいて、
 前記推進体はヘキサフルオロブタンであることを特徴とするインフュージョンポンプ。」
 
第4.引用例の記載事項
 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記3-1に記載したとおりである。
 
第5.対比・判断
 本願発明は、本願補正発明から、「埋込型インフュージョンポンプ」の限定事項である「プラスチック製であり」との発明特定事項を省いたものである。
 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、前記3-2、3-3に記載したとおり、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
 
第6.むすび
 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
 よって、結論のとおり審決する。
【審理終結日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【結審通知日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【審決日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【審判長】 【特許庁審判官】川本 真裕
【特許庁審判官】八木 誠
【特許庁審判官】北村 英隆

(21)【出願番号】特願平8-61421
(22)【出願日】平成8年3月18日(1996.3.18)
(31)【優先権主張番号】195 09 632.0
(32)【優先日】平成7年3月17日(1995.3.17)
(33)【優先権主張国又は機関】ドイツ(DE)
(54)【発明の名称】埋込型インフュージョンポンプ
(65)【公開番号】特開平8-266620
(43)【公開日】平成8年10月15日(1996.10.15)
【最終処分】不成立
【審決時の請求項数(発明の数)】2
【前審関与審査官】中田 誠二郎

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