2008年12月5日金曜日

不服2005-9305

【管理番号】第1183439号
【総通号数】第106号
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許審決公報
【発行日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【種別】拒絶査定不服の審決
【審判番号】不服2005-9305(P2005-9305/J1)
【審判請求日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【確定日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【審決分類】
P18  .113-WZ (H05K)
【請求人】
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
【住所又は居所】東京都新宿区西新宿一丁目26番2号
【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
【事件の表示】
 特願2002- 28963「電子回路基板の固定部材」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月15日出願公開、特開2003-229682〕について、次のとおり審決する。
【結 論】
 本件審判の請求は、成り立たない。
【理 由】
1.手続の経緯
 本願は、平成14年2月6日の出願であって、平成17年1月26日付けで手続補正がなされた後、同年4月12日付けで拒絶査定されたものである。
 そして、本件審判は、同年5月18日にこの拒絶査定を不服として請求されたものであって、同年6月16日付けで手続補正がなされたものの、当該手続補正は、平成20年3月26日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付け拒絶理由通知書が発送され、同年5月20日付けで意見書が提出されたものである。 
 
2.本願発明
 平成17年6月16日付けの手続補正は、上記のとおり却下されているので、本願の請求項1、2に係る発明は、平成17年1月26日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。
 
「電子回路基板の収容ケースに形成された弾性変形可能な足部と、前記足部に連続し、かつ前記電子回路基板の方向に突出する突起部を備えると共に、前記突起部を前記電子回路基板に係合させて前記足部の弾性力によって前記電子回路基板を所定の載置面に固定する部材において、前記足部の弾性力によって前記電子回路基板を前記載置面に固定したとき、前記突起部の前記電子回路基板に接する面と前記電子回路基板が所定の角度をなすように構成したことを特徴とする電子回路基板の固定部材。」
 
3.当審拒絶理由の概要
 当審より通知された拒絶の理由の概要は、
[理由1]本件出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記1の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、
[理由2]本件出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記1の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
 
             記
 
  刊行物1:特開2000-59052号公報
 
4.刊行物1の主な記載事項
 
 刊行物1(特開2000-59052号公報)には、次の事項が記載されている。
 
(1a)「【請求項1】 プリント基板が支持される支持部を有する筐体状のプリント基板ホルダにおいて、
内壁部に凸部を有する弾性部が設けられ、前記凸部にプリント基板の端縁部が接し、当該弾性部の弾性力によって支持部側に押し付けられていることを特徴とするプリント基板ホルダ。」(特許請求の範囲、請求項1)
 
(1b)「実施の形態2.図2は、この実施の形態2によるプリント基板ホルダと前記プリント基板ホルダに収容されるプリント基板を示す構成図であり、(a)は断面図、(b)は側面図である。図において、4はプリント基板ホルダ、4aは前記プリント基板ホルダの底部(支持部)、4bは前記プリント基板ホルダ4に形成されたスリット、2は各種電子部品が実装されたプリント基板であり、前記プリント基板ホルダ4の底部4a上に載置されている。また、5は前記プリント基板2を保持するための弾性部、5aは前記弾性部5の凸部、5bは前記凸部5aの斜面である。
 上記プリント基板ホルダ4において、スリット4bは上記プリント基板ホルダ4の側壁の相対向する2箇所に上部から底部4aにかけて形成され、このスリット4bが形成された部分に、当該スリット4bの側辺部との間に間隔を空けて、上記弾性部5が形成されている。上記弾性部5は、上記プリント基板ホルダ4と連続しており、プリント基板ホルダ4の内側に向かって突出する断面三角形状の凸部5aを有する。そして、この凸部5aの下側の斜面5bは上記プリント基板2の端縁部と接しており、この状態で弾性部5は外側に向かう力を受けると同時に、これに対して内側に戻ろうとする弾性力を生じ、この弾性力によってプリント基板2が下側に押し付けられ固定されている。
 以上のように、この実施の形態2によると、上記プリント基板2は、保持用凸部の代わりに上記弾性部5によってプリント基板ホルダ4内に保持される。この弾性部5は、プリント基板2を底部4a側に押し付けて固定するので、プリント基板2が確実に保持される。・・・・」(【0017】~【0019】)
 
5.当審の判断
 
(1)刊行物1に記載された発明
 刊行物1には、(1a)によれば、「プリント基板が支持される支持部を有する筐体状のプリント基板ホルダにおいて、内壁部に凸部を有する弾性部が設けられ、前記凸部にプリント基板の端縁部が接し、当該弾性部の弾性力によって支持部側に押し付けられているプリント基板ホルダ。」が記載されているといえる。
 そして、前記プリント基板ホルダに設けられた弾性部に関して、(1b)の「実施の形態2.」における記載、すなわち、「上記プリント基板ホルダ4において、・・・上記弾性部5が形成されている。」、「上記弾性部5は、上記プリント基板ホルダ4と連続しており、プリント基板ホルダ4の内側に向かって突出する断面三角形状の凸部5aを有する。そして、この凸部5aの下側の斜面5bは上記プリント基板2の端縁部と接しており、この状態で弾性部5は外側に向かう力を受けると同時に、これに対して内側に戻ろうとする弾性力を生じ、この弾性力によってプリント基板2が下側に押し付けられ固定されている。・・・この弾性部5は、プリント基板2を底部4a側に押し付けて固定する。」との記載によれば、前記「弾性部」は、「プリント基板ホルダに形成」されており、「プリント基板ホルダの内側に向かって突出する凸部を有すると共に、前記凸部の下側の斜面をプリント基板の端縁部に接しさせ、弾性部の弾性力によってプリント基板を底部に固定するもの」であるといえる。 
 また、前記凸部の前記プリント基板に接する下側の面は斜面であるから、該斜面と前記プリント基板とは所定の角度を有しているものといえる。
 
 以上の記載及び認定事項を本願発明1の記載ぶりに則り整理すると、刊行物1には、次の発明が記載されてい
る。
「プリント基板ホルダに形成された弾性部であって、前記弾性部は、前記プリント基板の方向に突出する凸部を有すると共に、前記凸部を前記プリント基板に接しさせ、前記弾性部の弾性力によって前記プリント基板を底部に固定するものであって、前記弾性部の弾性力によって前記プリント基板を前記底部に固定したとき、前記凸部の前記プリント基板に接する面と前記プリント基板は所定の角度を有するプリント基板を固定する弾性部。」(以下、「刊行物1発明」という。)
 
(2)対比・判断
 本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「プリント基板ホルダ」、「プリント基板」、「凸部」、「有すると共に」、「接しさせて」、「底部」は、それぞれ本願発明1における「電子回路基板の収容ケース」、「電子回路基板」、「突起部」、「備えると共に」、「係合させて」、「所定の載置面」に相当し、また、刊行物1発明における「弾性部」は、本願発明1における「固定する部材」および「固定部材」に相当するものである。
 そして、刊行物1発明における前記「弾性部」は、「凸部」と、「弾性部から凸部を除いた部材」、すなわち、「弾性部においてプリント基板ホルダと連続し、その先端部にプリント基板の方向に突出する凸部が設けられている部材」とから構成されており、前記「弾性部から凸部を除いた部材」は、弾性変形可能であって、本願発明1における「足部」に相当するものであるから、刊行物1発明における、「プリント基板ホルダに形成された弾性部であって、前記弾性部は、前記プリント基板の方向に突出する凸部を有する」との構成は、本願発明1における、「電子回路基板の収容ケースに形成された弾性変形可能な足部と、前記足部に連続し、かつ前記電子回路基板の方向に突出する突起部を備える」との構成に相当するものといえる。
 さらに、刊行物1発明における、「弾性部の弾性力」は、主に「弾性部から凸部を除いた部材」によってもたらされるものといえるから、本願発明1における、「足部の弾性力」に相当するものといえる。
 
 してみると、本願発明1と刊行物1発明とは、同一の機能及び構成を有する足部及び突起部を備える電子回路基板の固定部材である点において一致し、前記電子回路基板を所定の載置面に固定したときに、前記突起部の前記電子回路基板に接する面と前記電子回路基板が所定の角度をなす点においても一致するものであるから、両発明において、相違点は何ら見当たらない。
 
 したがって、本願発明1は、刊行物1発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定に違反するものである。
 
 なお、審判請求人は、平成20年5月20日付け意見書にて、平成17年6月16日付けの手続補正によって特定される請求項1に係る発明は、特許性を有するものである旨主張するが、当該手続補正は、平成20年3月26日付けで却下されており、当該主張は、現在の請求項に係る発明についての主張とはいえず、採用することができない。
 
6.むすび
 以上のとおり、本願発明1は、刊行物1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
 
 よって、結論のとおり審決する。
【審理終結日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【結審通知日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【審決日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【審判長】 【特許庁審判官】山田 靖
【特許庁審判官】近野 光知
【特許庁審判官】鈴木 由紀夫

(21)【出願番号】特願2002-28963(P2002-28963)
(22)【出願日】平成14年2月6日(2002.2.6)
(54)【発明の名称】電子回路基板の固定部材
(65)【公開番号】特開2003-229682(P2003-229682)
(43)【公開日】平成15年8月15日(2003.8.15)
【最終処分】不成立
【審決時の請求項数(発明の数)】1
【前審関与審査官】内田 博之

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